先生、優しくしないで
「保健室、空いてなくて。男の部屋なんて嫌だろうけど、ごめんね」

ウィリアムはそう謝りながら有紗をソファの上に下ろす。その動作はまるで、割れ物を扱うかのように慎重で丁寧なものだった。

十畳ほどの広さがあるウィリアムの部屋には、有紗が寝かされているソファの他にデスク、本棚が置かれている。そして、部屋の隅には簡易キッチンがあった。

「ちょっと待っててね」

ウィリアムは毛布を取り出すと有紗の体にかけ、キッチンに立つ。有紗は痛みに顔を顰めながら、ウィリアムがキッチンでお湯を沸かしたり茶葉を取り出すのを見ていた。ふわりといい香りが漂ってくる。

「体、起こせる?」

ガラス素材の美しいティーカップを手に、ウィリアムが近付いてくる。ゆっくりとした口調で優しく訊ねられ、有紗はコクリと頷き、ゆっくりと体を起こす。体を起こす際、ウィリアムはティーカップをテーブルの上に置き、有紗を支えてくれた。

「先生、この紅茶は……」

「シナモンティーだよ。シナモンには精神を落ち着ける効果があって、生理痛や吐き気の緩和、消化不良などにいいんだよ」
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