精霊魔法が使えない無能だと婚約破棄されたので、義妹の奴隷になるより追放を選びました
第87話 はいっ、さっそく乱されてます‼
瞼の裏に強い光を感じ、私はゆっくりと目を開けた。
昨日カーテンを閉めるのを忘れていたみたいで、窓からベッドの方に外の光が思いっきり差し込んでいる。
いつもなら、私が眠る際に侍女の方がやってきて、カーテンを閉めるなどの支度をしてくれているはずなのに、カーテンは開けっぱなしだし、いつも整えられている鏡台の上も散らかっているような……
さすがに、フォレスティの星のネックレスと指輪は、きちんと箱に収められているようだけれど。
最低限だけのことはやって侍女の方が慌てて退室したような状況に、私は首を傾げた。
フォレスティ城で働く方々は、皆、自身の仕事に誇りを持っているはずなのに、どうして……
(……いや違う)
ボーッとしていた頭の中がクリアになっていく。
そうだったわ。
私が……私が、一人にして欲しいと言って、早々に退室をお願いしたんだった!
理由?
そんなの――
『俺は――エヴァのことを心から愛している』
アランの言葉が思い出された瞬間、火を噴き出したのかと思うほど発熱した顔を両手で覆った。そのまま力が抜けるのに任せて仰向けになると双眸を閉じ、頭の下にあった柔らかな枕を抱きしめて顔を埋める。
声にならない声をあげながら、両足を激しくバタバタさせるたびに、ポフッと気の抜けた音が部屋に響いた。
ずっと片想いしていたアランと想いが通じ合った。
その喜びを噛みしめたくて、そして思い出す度に悶絶する姿を見られたくなくて、いつものようにお世話をしてくださろうとした侍女の方にお願いして、早々に一人にして貰ったんだった!
昨日は一日、本当に大変だった。
リズリー殿下との婚約を破棄された時も大変だったけれど、それ以上だと思う。
リズリー殿下とマルティと対面し、アランたちの協力によってなんとかフォレスティ王国から撤退させることに成功した。
殿下には、精霊がいなくなって衰退の道を辿ろうとしているバルバーリ王国を救う条件として、ギアスと霊具を捨てるよう伝えた。
バルバーリ王国が私の要求を飲み、フォレスティ王国のように精霊を大切にする国へと生まれ変わって欲しい。自分たちの利益の為でなく、バルバーリ王国に住む国民たちのために決断して欲しいと切に願う。
長年、私を虐げ続けた義妹マルティにも一矢報いることができたと思う。
今まで私を見下し虐げ、挙げ句の果てにリズリー殿下と共謀して私を追放に追いやった彼女が、全てを失い、本気泣きをしながら床に這いつくばる惨めな姿は哀れでもあった。
いえ、それはいい。
あ、別にどうでもいいわけじゃないけれど、も、問題はその後よ!
(私……アランと恋人同士になったの……ね?)
今でも、昨日のあの一時は夢だったんじゃないかと思う。枕から顔を離すと、試しに頬っぺたをつねってみた。
……痛い。
何度つねってみても、痛覚がしっかり仕事をする。
大丈夫、夢じゃない。
目を開けたら、全部が私の妄想でしたという悲しいオチじゃない!
ということは、あれも――
触れあうお互いの唇。
柔らかくて温かくて、まるで心まで重なり合っているような感覚に、何も考えられなくなって。
唇が離れた後は、しばらく抱きしめ合ったまま、互いの鼓動と息づかいをすぐ傍で感じていた。
動いたのは、アラン。
私の身体を少しだけ離すと、まだ涙で濡れている私の頬をそっと拭いながら、少し照れくさそうに口を開いた。
「エヴァ、可愛い」
そう言って、アランが私の頬に口づけをした。肌から伝わってくる彼の唇の感触に、思わず目を閉じてしまう。
ちょ、ちょっと待って、アランが凄く来る!
想いが通じ合ったとたん、もの凄く来るんですけどっ!
はい、恋人になりましたって直ぐに恋人同士な振る舞いができるほど、私、切り替え上手じゃないんですけどっ‼
全身が熱すぎて、恥ずかしすぎて、でも幸せ過ぎて、感情の落差に目が回りそう。
「エヴァ?」
「はぃっ⁉」
メンタル的にいっぱいいっぱいなところに名を呼ばれ、私は思わずビクッと身体を震わせた。そのせいで、非常に間抜けな声が洩れてしまう。
アランは私の様子から何かを察したのか、あっと小さく声をあげると、口元を手で覆いながら恥ずかしそうに顔を背けた。
「ご、ごめん……エヴァと恋人同士になれて俺、浮かれてしまって……」
「アランが悪いんじゃないから、謝らないで! 私が一人気恥ずかしいというか……こういう関係、あなたが初めてだから、ど、どうしたらいいのか分からないというか……」
あー、もうっ!
恥ずかしすぎて、滅茶苦茶に混乱してる本心をダラダラ垂れ流しちゃってるし!
私だってもっと素直になって、アランに好きを伝えたり行動にしたいのに、全力で羞恥心が邪魔してくるって、どういうことなの?
ようやく片想いが実ったのだから、ここは素直に愛情を表現させてください、私の恋心!
私の言葉を聞き、アランが一瞬だけ軽く目を見開く。だけど直ぐに瞳を細めながら、うれしそうに口元を緩めた。
「初めてなら仕方ないよ。大丈夫、エヴァのペースでいいから」
「う、うん……ありがとう、アラン」
見なさい、エヴァ! アランのこの余裕を!
だから私も少しは心に余裕を――
「でも、俺がエヴァのペースを乱したら、ごめん」
甘さを纏った囁きが耳の奥をくすぐり、耳たぶに彼の唇が触れる。
はいっ、さっそく乱されてます‼
ありがとうございますっ‼
昨日カーテンを閉めるのを忘れていたみたいで、窓からベッドの方に外の光が思いっきり差し込んでいる。
いつもなら、私が眠る際に侍女の方がやってきて、カーテンを閉めるなどの支度をしてくれているはずなのに、カーテンは開けっぱなしだし、いつも整えられている鏡台の上も散らかっているような……
さすがに、フォレスティの星のネックレスと指輪は、きちんと箱に収められているようだけれど。
最低限だけのことはやって侍女の方が慌てて退室したような状況に、私は首を傾げた。
フォレスティ城で働く方々は、皆、自身の仕事に誇りを持っているはずなのに、どうして……
(……いや違う)
ボーッとしていた頭の中がクリアになっていく。
そうだったわ。
私が……私が、一人にして欲しいと言って、早々に退室をお願いしたんだった!
理由?
そんなの――
『俺は――エヴァのことを心から愛している』
アランの言葉が思い出された瞬間、火を噴き出したのかと思うほど発熱した顔を両手で覆った。そのまま力が抜けるのに任せて仰向けになると双眸を閉じ、頭の下にあった柔らかな枕を抱きしめて顔を埋める。
声にならない声をあげながら、両足を激しくバタバタさせるたびに、ポフッと気の抜けた音が部屋に響いた。
ずっと片想いしていたアランと想いが通じ合った。
その喜びを噛みしめたくて、そして思い出す度に悶絶する姿を見られたくなくて、いつものようにお世話をしてくださろうとした侍女の方にお願いして、早々に一人にして貰ったんだった!
昨日は一日、本当に大変だった。
リズリー殿下との婚約を破棄された時も大変だったけれど、それ以上だと思う。
リズリー殿下とマルティと対面し、アランたちの協力によってなんとかフォレスティ王国から撤退させることに成功した。
殿下には、精霊がいなくなって衰退の道を辿ろうとしているバルバーリ王国を救う条件として、ギアスと霊具を捨てるよう伝えた。
バルバーリ王国が私の要求を飲み、フォレスティ王国のように精霊を大切にする国へと生まれ変わって欲しい。自分たちの利益の為でなく、バルバーリ王国に住む国民たちのために決断して欲しいと切に願う。
長年、私を虐げ続けた義妹マルティにも一矢報いることができたと思う。
今まで私を見下し虐げ、挙げ句の果てにリズリー殿下と共謀して私を追放に追いやった彼女が、全てを失い、本気泣きをしながら床に這いつくばる惨めな姿は哀れでもあった。
いえ、それはいい。
あ、別にどうでもいいわけじゃないけれど、も、問題はその後よ!
(私……アランと恋人同士になったの……ね?)
今でも、昨日のあの一時は夢だったんじゃないかと思う。枕から顔を離すと、試しに頬っぺたをつねってみた。
……痛い。
何度つねってみても、痛覚がしっかり仕事をする。
大丈夫、夢じゃない。
目を開けたら、全部が私の妄想でしたという悲しいオチじゃない!
ということは、あれも――
触れあうお互いの唇。
柔らかくて温かくて、まるで心まで重なり合っているような感覚に、何も考えられなくなって。
唇が離れた後は、しばらく抱きしめ合ったまま、互いの鼓動と息づかいをすぐ傍で感じていた。
動いたのは、アラン。
私の身体を少しだけ離すと、まだ涙で濡れている私の頬をそっと拭いながら、少し照れくさそうに口を開いた。
「エヴァ、可愛い」
そう言って、アランが私の頬に口づけをした。肌から伝わってくる彼の唇の感触に、思わず目を閉じてしまう。
ちょ、ちょっと待って、アランが凄く来る!
想いが通じ合ったとたん、もの凄く来るんですけどっ!
はい、恋人になりましたって直ぐに恋人同士な振る舞いができるほど、私、切り替え上手じゃないんですけどっ‼
全身が熱すぎて、恥ずかしすぎて、でも幸せ過ぎて、感情の落差に目が回りそう。
「エヴァ?」
「はぃっ⁉」
メンタル的にいっぱいいっぱいなところに名を呼ばれ、私は思わずビクッと身体を震わせた。そのせいで、非常に間抜けな声が洩れてしまう。
アランは私の様子から何かを察したのか、あっと小さく声をあげると、口元を手で覆いながら恥ずかしそうに顔を背けた。
「ご、ごめん……エヴァと恋人同士になれて俺、浮かれてしまって……」
「アランが悪いんじゃないから、謝らないで! 私が一人気恥ずかしいというか……こういう関係、あなたが初めてだから、ど、どうしたらいいのか分からないというか……」
あー、もうっ!
恥ずかしすぎて、滅茶苦茶に混乱してる本心をダラダラ垂れ流しちゃってるし!
私だってもっと素直になって、アランに好きを伝えたり行動にしたいのに、全力で羞恥心が邪魔してくるって、どういうことなの?
ようやく片想いが実ったのだから、ここは素直に愛情を表現させてください、私の恋心!
私の言葉を聞き、アランが一瞬だけ軽く目を見開く。だけど直ぐに瞳を細めながら、うれしそうに口元を緩めた。
「初めてなら仕方ないよ。大丈夫、エヴァのペースでいいから」
「う、うん……ありがとう、アラン」
見なさい、エヴァ! アランのこの余裕を!
だから私も少しは心に余裕を――
「でも、俺がエヴァのペースを乱したら、ごめん」
甘さを纏った囁きが耳の奥をくすぐり、耳たぶに彼の唇が触れる。
はいっ、さっそく乱されてます‼
ありがとうございますっ‼