旅先恋愛~一夜の秘め事~
10.「好き」
週が明けた月曜日の朝、会議のため早めに出社する彼を玄関先で見送る。


「行ってらっしゃい、気をつけて」


「ありがとう。唯花も無理をするなよ。なにか異変があったらすぐに知らせるように」


普段と変わらない、朝のやり取りに安心する一方で不自然さも感じてしまう。

土曜日に帰宅して以降、古越さんの話も“大切な方”に触れる会話もお互いに避けていた。

聞きたい気持ちはあるが、やはり不安が勝っていた。

なにより暁さんがこの話題に踏み込むのを嫌がっているように感じた。


「今日は遅くなると思うから、先に休んでいてくれ」


玄関のドアノブに手をかけた彼が告げる。

うなずくと、彼は私を片腕でそっと抱きしめて優しいキスをした。


「行ってくる」


いつも通りの出勤前の挨拶なのに、どうしてこんなに胸が痛むのだろう。

暗くなりがちな気分を無理やり追い出して、身支度を整える。

ほんの少しふっくらしたお腹に指で触れ、話しかける。


「……パパはママを、今も少しは好きでいてくれるかな……」


赤ちゃんを不安にさせる言葉を吐く私は母親失格だろうか、と考えながらもつぶやかずにはいられなかった。
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