旅先恋愛~一夜の秘め事~
自宅を出るまでは出勤準備が億劫だったのに、いざ出社すると仕事があるのが有難かった。

暁さんの姿を近い距離で見かけると、心が乱れるのは避けられない。

けれど無理やりにでも仕事だと割り切れば余計な物事を考えなくてすむし、やりがいも感じられる。

ただ、堤さんの姿を目にするたび、葛藤と羨望がこみ上げてくる。


……なぜ、彼が心惹かれた女性が私じゃなかったんだろう。

過去も出会う順番も変えられないとわかっているのに考えてしまう。


昼休みになり、堤さんと時間差でひとりの昼食をとっているとき、ふと思った。

今の私には働ける場所があり、赤ちゃんも順調に育ってくれている。

万が一、彼と別れる事態になっても生活は成り立つのではないだろうか。

勤務先が椿森ホールディングスの子会社なので難しいのは承知の上だ。

私たちの存在が迷惑をかけるならどこか遠い支社へ転勤しても構わないが、無職になるのだけは避けたい。


……図々しすぎるだろうか。

暁さんと本当は離れたくないし、ずっと一緒にいたい。

赤ちゃんの成長をともに見守りたい。


だけど結婚生活は片一方の努力や希望だけでは成り立たない。

ましてや、パートナーの心が自分に向いていない場合、未来をともに歩み続けるのはきっと難しいだろう。

なにより、好きな人を苦しめ続けたくない。

悲しい顔を見るために結婚したわけじゃないのだから。
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