旅先恋愛~一夜の秘め事~
十分な睡眠をとったせいか、翌朝は早い時間にすっきりと目が覚めた。

足の痛みも引いていて、スリッパをパタパタ鳴らしつつ洗面所へ向かい、顔を洗った。


その後、身支度を整えて、朝食のビュッフェレストランを目指し部屋を出た。


「あれ、レストランって二階だよね?」


私の部屋は二十三階で、二十階以上がスイートルームになっている。

二階のエレベーターホールで館内地図を見るも、レストランが見当たらない。

まだ朝も早い時間帯のせいか、人気もまったくない。

迷ったとしか思えず、通路に置いてある小さな椅子に腰かけた。


「……一度部屋に戻るかフロントに行って聞くしかないか」


周囲に誰もいないので気が緩み、ついつい声が出てしまう。

ホテル内での迷子はさすがに避けたい。


フロントに向かうため立ち上がった途端、背後から声をかけられた。


「――また迷った?」


聞き覚えのある淡々とした声に思わず振り返る。


「え……暁、さん?」


「昨日は無事に店に着いたか?」


長い足でゆっくりと私に近づく長身の男性は、間違いなく暁さんだった。

ライトグレーのスーツに濃紺のネクタイがとても似合っている。


「はい、ありがとうございました」


「ここに宿泊を?」


尋ねられ、うなずく。


「なんで早朝にこんな場所をウロウロしている?」


警戒するかのような問いかけに、小声で答える。


「……朝食を食べようとレストランに向かっていたんです」


そう言って、ビュッフェレストランの朝食チケットを見せる。

彼はそれを一瞥して、スッと目を細めた。
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