旅先恋愛~一夜の秘め事~
「……唯花(いちか)


私の首筋を椿森(つばきもり)さんの黒髪がかすめる。

その微かな刺激に敏感になった体が震え、反応する。

柔らかい唇が私の鎖骨に触れ、甘噛みされる。

長い綺麗な指が私の胸を包み込む。

彼が触れた場所すべてが熱く、小さな声が漏れるのを抑えられない。


「……もっと俺を感じて、溺れて」


とろりと甘い、蜂蜜のような声が耳に響く。

硬く閉じていた瞼をわずかに持ち上げると、色香のこもった切れ長の二重の目が私を見つめていた。


「俺を見ろ」


低く誘惑するような声に体が反応する。

彼の名を口にしようとした途端、熱い唇に塞がれる。

体の隅々を暴いていく大きな手と覆いかぶさる重みに、胸がきゅうっと締めつけられる。


……この人が本当に求めている女性は私じゃない。


きっと彼は勘違いしている。


――それでも。


誰かに、肌を重ねるのは間違っていると責められても。

たった一度でいいから、心から好きになった男性に抱かれたかった。

たとえその結末がハッピーエンドではなく、明日の朝になればとけてしまう魔法だとわかっていても。
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