旅先恋愛~一夜の秘め事~
3.王子様の正体
東京と同じ日本国内なのに、馴染みのない場所だからか、目にするすべてが新鮮で輝いて見える。

観光名所やSNSで話題の店をひとり気ままに巡る。

有名な場所は基本的に要所要所で案内表示があるので迷わずにすみ、有意義な時間を過ごせた。


「……いつも迷っているわけじゃないのよ」


誰に伝えるわけでもなく、散策中ぽつりと声が漏れた。

普段東京ではこんなに立て続けに道がわからなくなったりしない。

なのになぜあの人の前では失態続きになるのだろう。

きっと情けない社会人だと思われているに違いない。

観光に出かけてから、何度暁さんについて考えただろう。

気にする必要もないのに、なぜか彼の仕草や台詞が頭にこびりついて離れない。

ふう、と小さく息を吐いてゆっくり足を進める。

腕時計に視線を落とすと、針は午後五時を指していた。

足も少し痛いし、喉も乾いてきた。

けれどまだ夕食には早いし、お茶でも飲もうかと思案したとき、暁さんに勧められたティーサロンを思い出した。

ホテル内の施設でくつろぐという魅力に抗えず、急いでホテルに戻った。

両手に土産の紙袋を抱えていたので、一旦部屋に戻ろうかと考える。

けれど、エントランスにほど近いティーサロンの前を通ったとき、漂ってきた甘い香りに誘われてそのまま入店してしまった。
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