旅先恋愛~一夜の秘め事~
「ああ……いや、悪かった。責めるつもりはないんだ。ただ……避けられたのかと思ったから」


「いえ、そんなつもりは」


無事に観光できているかずっと気になっていた、と彼は落ち着かない様子で話してくれた。

ほんの少し耳が赤くなっている姿に心の中がじんわりと温かく、軽くなった。


「ご心配いただきありがとうございました。もうすぐ部屋に戻りますので……」


同席していた女性の件を示唆すると、彼が合点がいったかのようにうなずく。

そして女性に軽く手を振ると、なぜか女性までもがこちらにやってきた。

少し垂れ目がちの二重の目に、緩く巻かれた艶やかな髪が肩の上で揺れている。

紺色の膝丈スカートから除く足はすらりとしている。


「誤解が解けたようでよかったですね、副社長?」


「……ひと言余計だ」


苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる暁さんに、整った顔立ちの女性が笑みを零す。

ふたりの気安い会話に心が軋む。



「俺の秘書の(つつみ)だ」


「初めまして、秘書の堤早百合(さゆり)と申します」


「綿貫、唯花です。初めまして」


丁寧に名乗られて、本名を告げないのは失礼だと思い、口にした。

隠す理由もないし、甘い考えかもしれないがこの人たちは信頼できる気がした。
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