旅先恋愛~一夜の秘め事~
ケーキの試食が終わり、部屋まで送ると言われた。


「いえ、大丈夫です。堤さんが待ってらっしゃるのでしょう?」


「堤は今、改修工事中のテラスのチェックをしている。終了次第連絡がある」


「でも」


「いいから、行こう。俺の我がままを聞いてくれないか?」


私の荷物をさり気なく手にした彼に促される。

優しすぎる我がままの対応に困る。

荷物を持とうとすると、やんわり断られた。

どこまでも親切な彼に戸惑いを隠せない。

ティーサロンを出る際に、支払いをしようとすると彼に済ませてあるから必要ないと言われた。


「そんな、だめです。たくさん美味しいケーキもいただきましたし、支払います」


焦ってバッグから財布を出そうとすると、暁さんは私の手にそっと触れた。

動きを止められ、彼を見上げるといたずらっ子のような眼差しにぶつかった。


「だったら、代わりのものをもらっていいか?」


「もちろんです。なんでしょう?」


「手を繋いで」


「……え?」


暁さんの要望を聞き返そうとした瞬間、するりと長い指が私の左手に触れた。

緩く指が絡まり大きな手の平に包み込まれる。

じんわりと伝わっていく体温に体中が熱を持つ。


「暁さん……!」


「これで支払いの件はナシだ、唯花。俺とふたりで過ごす時間はこうしていてほしい」


軽く屈んで、私の目を覗き込む目には色香が漂う。

本気とも冗談ともつかない甘い台詞に、どうしていいかわからない。
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