旅先恋愛~一夜の秘め事~
これまでとはどこか違う、親密さの滲む態度に驚く。


今朝だって、近くに踏み込めないような刺々しさを感じていたのに。


お互いの素性を知ったから? 


それともほかに理由があるの?


「呼んで、唯花」


至近距離から覗き込まれ、思わず目を見開く。


「……名前を呼んでくれないならキスするけどいいか?」


骨ばった指に顎を掬われ、ひゅっと息を呑む。

長いまつ毛に縁取られた目が甘い誘惑でけぶる。

本気とも冗談ともつかない強引な態度に逡巡しつつ、口を開く。


「……暁、さん」


「“さん”は不要だが……仕方ないな」


即座に言われて、小声で拒絶すると眦を下げる。


「もう一回、呼んで」


「暁さん……」


「唯花」


私の名前を口にして、彼が顎から指を外す。

瞬きをする間もなく額に触れた柔らかな感触に、鼓動が大きく音を立てた。


「……可愛い、な」


突然の出来事に目を見張る私に、蜂蜜のように甘い声が降り注ぐ。


「これからはずっとそう呼べよ? 敬語も不要だ」


「……敬語は、すぐには無理です」


私の反論に早く慣れろ、と無茶な要求を突きつける。

ふわりと花が綻ぶような微笑みに、胸がきゅうっと切なく痛んだ。
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