旅先恋愛~一夜の秘め事~
金曜日がやってきた。

木曜日の夜は緊張でなかなか寝つけず、何度も寝返りを打った。

重い体を引きずるように出勤し、午後から本社へ吉住くんと向かった。

日本橋にあるうちのビルも立派だが、大手町にある本社の比ではない。

真新しい三十階建てのビルが、太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。

広いエントランスと高い吹き抜け、大勢の人が行き来する様子に圧倒される。


「いつ来ても本社はすごいよなあ」


商談等で来訪経験のある同期が苦笑する。

支給されたパスをかざし、エレベーターに乗り込む。

社内の廊下も、研修室内も、暁さんの姿はどこにもなかった。



研修が終了し、上司に連絡する。

私は直帰の許可をもらえたが、吉住くんは急な仕事が入ったらしく慌ただしく研修室を出て行った。

私も遅ればせながら出口に向かうと、長身の眼鏡をかけた男性が入室してきた。

目が合った途端、口角を上げて近づいてきた。


「突然申し訳ございません。綿貫唯花さんですか?」


「はい……そうです」


「研修の件でお話がありますので、恐れ入りますが一緒にきていただけませんか?」


顔写真付きのIDカードをサッと提示される。

彼の姿を目にした周囲がなぜかざわつく。

男性の指が邪魔で所属と名字がよく見えなかったが、周囲の人の反応から本社社員なのだろうと思い、了承した。
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