旅先恋愛~一夜の秘め事~
男性と一緒に研修室を出て、高層エレベーターに乗り込む。


「あの、お話というのは……?」


「それは私の上司からお話いたします」


眼鏡の奥の垂れ目がちの目を細めつつ返答される。

到着したフロアは床に絨毯が敷き詰められ、明らかにほかと雰囲気が異なっている。


「どちらに向かっているのですか?」


男性の後ろについて歩きながら問いかけると、彼がサッと目の前の扉を開いた。


「どうぞ、お入りください」


促され、広い室内に足を踏み入れる。

すると男性は一礼し、扉を閉めて出て行った。


「えっ……」


男性の退出に驚いて振り返る。

どうしようかと思案していると、背後から低い別の男性の声が響いた。


「――久しぶり、唯花」


名前を呼ばれ、ビクリと肩が跳ねる。


……まさか、嘘でしょう?


この声を覚えている。

あの日から何度も夢に見た。


でも、どうして。


ゆっくりと近づいてくる足音に、鼓動が早鐘をうつ。

足がその場に縫いつけられたかのように体が動かない。

彼の姿を見たいと願う自分と、あの日の自分の酷い態度に今すぐ去りたい気持ちが交錯する。


今さらどんな顔で会えばいいの?


無意識に握りしめた指が震え、顔から血の気が引く。


私をここに呼び出したのは逃げ出した怒りを伝えるため?


騙したわけでもからかったわけでもないと、話したら信じてもらえるだろうか。
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