旅先恋愛~一夜の秘め事~
「ではフロアを案内しながら、業務の説明をしますね」 


仕事モードに切り替わった堤さんについて、秘書課に足を踏み入れる。


二列に並んだデスクの一番奥が加住室長の席で、そのすぐ隣が堤さんの席だそうだ。

私は堤さんの真向かいの席になった。

秘書課のほかの方々にも紹介していただき、説明を受ける。


堤さんは月の半分ほどは京都に滞在しているという。

その間、副社長の秘書業務は加住室長をはじめ、秘書課の皆さんが担っているそうだが手が回らないときが多いそうだ。

秘書業務未経験の私は基本的に秘書課の事務書類仕事を受け持ち、さらに堤さんと営業課のやり取りの補佐業務を担う。


「事務書類の作成だけでずいぶん時間を使うので、綿貫さんが手伝ってくださればとても助かります」


そう言って、堤さんは書類の保存場所などを教えてくれる。

私への業務引継ぎのため、昨夜京都から戻ってきてくれたそうだ。


「私のためにありがとうございます。お疲れじゃないですか?」


「大丈夫ですよ。京都は私の故郷なので、業務とはいえ頻繁に戻れるのは実は嬉しいんです。両親や旧友たちと仕事終わりに会えますから」


意外な事実に驚く。


「お気遣いくださるなんて、やはり綿貫さんはお優しいですね。副社長のお気持ちがよくわかります」


どういう意味かと堤さんに尋ねようと口を開いたとき、内線電話が鳴り響く。

堤さんが応対し、タイミングを逃してしまった。
< 83 / 173 >

この作品をシェア

pagetop