旅先恋愛~一夜の秘め事~
「古越家には社長が正式に縁談の断わりを入れたそうですので、心配なさらないでください。元々古越家の先代当主と椿森の先代当主が懇意にされていた縁での話なんです」


やはり名家には一般市民の私ではわからない大きな繋がりがある。


「代替わり後は疎遠になっていたんですが、古越の令嬢が副社長にひと目惚れをして以来何度も申し込みがあって……副社長にはすでに決めた方がいらっしゃいますのにね」


肩を竦める堤さんにどう反応すればいいのか迷う。


「副社長は大切な女性には一途な方です。過干渉が嫌いで、言葉足らずな点も多いかと思いますがどうぞよろしくお願いいたします」


「私のほうこそ……今さらですが京都では挨拶もせずに帰ってしまい申し訳ございません」


さすがに一夜を過ごした後で逃げたとは言えず、婉曲的に告げる。


「気になさらないでください。そもそも副社長が性急すぎるんですよ」


「あの、私に敬語は必要ないので普段通りに話してください」


年齢も立場も堤さんのほうが上だ。


「有難いお言葉ですが、綿貫さんは社員といえど副社長の大切な方です。私はこのほうが話しやすいのでこのままでお願いできませんか?」


「わかりました……」


「私が綿貫さんと親しく話していたら、嫉妬心と独占欲の強い上司に睨まれそうですからね」


今度試してみましょうか、と堤さんは頬を緩める。


嫉妬心と独占欲の強い上司とは暁さんだろうか?


けれど彼のそんな姿を見た覚えはないし、堤さんの勘違いだと思う。
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