訳あり子育て中は 御曹司からの猛攻にご注意下さい
「あー」

え?
いきなり聞こえてきた登生の声で我に返る。

「どうしたの?」
「りこちゃーん」

見るとダイニングテーブルの上に用意した焼きそばが、リビングの床に広がっている。

「嘘でしょ」
「ごめんなさい」

空になったお皿を持ったまま、半べそをかいている登生。
どうやら、リビングに運んで食べようとしたらしい。
それにしても・・・

「もう、なんでこぼすのよっ」
つい、大きな声が出た。

そもそもこのうちのLDKはフローリングになっている。けれど、リビングスペースには毛足の長いラグが敷いてある。
オフホワイトで柔らかい手触りの高級そうなラグは、一旦汚れたら拭くだけではきれいにはならない。
それがわかっていて、登生にはリビングで食事をしないようにと言ってあった。
きっと今日は、テレビが見たくて行ったんだと思うけれど・・・
こぼれてしまった焼きそばをどかしても、ソースがべったりと毛足の中まで入り込んでいた。

「こっちでご飯食べたらダメだって言ったでしょ。ダイニングに用意したんだからそこで食べたらよかったじゃない」
「わーん」
聞こえてきた登生の鳴き声。

「もう、いいからあっちに行って」

普段ならこんなに感情的に怒ったりはしない。
今日は麗華のことがあってイライラしていた。
でもこれは言い訳、完全な八つ当たりだ。

「おい、何やってるんだ」

あー最悪、こんなところを淳之介さんに見られてしまうなんて。
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