冷酷王の元へ妹の代わりにやってきたけど、「一思いに殺してください」と告げたら幸せになった
「見ているだけで楽しくて」
オルテンスの歩く速度は正直言って遅い。元々一人で歩いてどこかに行くということをしてこなかったオルテンスは、歩くと言う行為にそこまで慣れていない。今まで限られた世界しかなかったオルテンスは、歩く距離も短かった。
こんなにも人が沢山溢れている場所を歩くだなんて、祖国に居た頃のオルテンスには想像も出来なかったことである。
ゆっくりと歩くオルテンスの足取りに、合わせるかのようにデュドナたちはゆっくり歩いていくれている。
歩きながらオルテンスはきょろきょろと街中を見渡している。
例えば、街の人々が食事をする食堂。外にメニューが張り出されていて、オルテンスの知らない名前の料理もたくさんある。
例えば、王都を訪れた人々に道案内をしてお小遣いを稼ごうとしている子共たち。そういう風な存在がいることをオルテンスは知らなかった。
例えば、王都の公園。緑が溢れて、ベンチまでおかれているその場には大きな噴水がある。そういう公園というものにもオルテンスはきたことがない。
目に映るもの全てがオルテンスにとっては新鮮で、面白いものだった。
そのすべてがオルテンスにとっては奇跡のようで、こういう世界があるのだなと驚く。
それはその場所で暮らす人たちにとってはどこまでも当たり前の暮らしだけど、オルテンスにとってはそうではないのだ。
オルテンスの目に映る人々は、とても幸せそうに笑っている人ばかりだ。
もちろん、王都に住まう人々が全て、幸福に包まれているかといえばそれは違うだろう。人生には幸せな時とそうでない時があるわけで、幸せではない人だってこれだけ人がおおければ当然いる。
だけれども、そこで暮らす人々は命の危機には瀕していない。誰かに暴力を振るわれるような危機的状況にあるわけではない。そして毎日暮らしていけるだけの幸福がある。
祖国でのオルテンスは、痛いことに怯える暮らしをしていた。だから、メスタトワ王国での暮らしは奇跡だと、夢の中のようだと思っていた。だけど、違うのだと目の前の光景を見ていて気付きそうになっている。
――こうして、痛みに怯えることなく暮らすのが本来ならば当たり前なのだと実感は正直したくなかった。今までの暮らしが当たり前のものではなく、夢のような暮らしが当たり前なのだと思いたくなかった。
それはやっぱりオルテンスがまだ、自分の命は祖国のものだと思っていて、いずれ痛みの満ちた祖国に帰らなければいけないという呪縛に包まれているからだ。
だから、やっぱりまだオルテンスはデュドナに一思いに殺してほしいと思っている。でも流石にお出かけにでかけている場なので、この場ではオルテンスはそれを口にすることはなかった。
「オルテンス、見て回るだけでいいのか。何処かお店に入るか?」
「……えっと」
「お金は気にしなくていい」
一通り歩き回ったオルテンスに、デュドナが声をかければオルテンスは戸惑ったような顔をしている。
「見ているだけで楽しくて。だから、お店に入るの考えてなかったです」
「なんだ、それ。入った方がきっと楽しいぞ」
「そうですよ。入りましょう!!」
デュドナとオルテンスが会話をしているところにミオラが勢いよく言う。ミオラの脳内では、オルテンス様は見ているだけで楽しいなんていって可愛い! でももっと楽しんでもらいたいというそういう気持ちで溢れていた。
「じゃ、じゃあ……あそこに入ってみたいかも。見た目が凄く可愛いもの」
「雑貨屋だな」
オルテンスが指さしたのは、雑貨屋である。ありふれたどこにでもあるようなお店。だけれども外観の可愛さにオルテンスは心惹かれたらしい。
その言葉にミオラは満面の笑みを浮かべていた。あとこっそり護衛している面々もだらしない顔を披露している。
その様子にデュドナは呆れながらも、オルテンスが楽しそうなのでいいかと雑貨屋の中へと入る。
様々なものがおかれているそのお店を見て、オルテンスは嬉しそうに目を輝かせている。
「デューさん、物がいっぱい! これ全部売り物ですか? 凄い」
「そうだな。何か欲しいものがあったら言え」
「でも」
「遠慮はしなくていい。何でも好きなだけ選べばいい」
平民達が買い物をする雑貨屋なので、此処で幾ら買い物をしたところでメスタトワ王国の財政は揺るぎはしない。あとは花嫁候補であるオルテンス用の資金は十分に余っているので、寧ろ使ってもらった方がいいのだ。
オルテンスはもうすでに用意されているものにすっかり満足しているので、新しく何かを買ったり全然しないのだ。なので、寧ろ王城の財政官は「もっとオルテンス様にお金を使ってもらいましょう」と言っているぐらいである。
とはいえ、オルテンスは何かを自分で選ぶというのはしたこともなく、こういう場での買い物などしたこともない。キラキラした目で雑貨を見ながら、どうしようと悩んでいる。
なにかを買ってもらうにしても、何を買おうかと頭を悩ませているのだ。
その様子を見ながら雑貨屋の店員たちも和んだ様子を見せていた。オルテンスとデュドナはお忍びとはいえ、明らかによい所の出のように店員にも見えた。なので入ってきた時には少し緊張したものの、オルテンスの無邪気さにその緊張もなくなったらしい。
こんなにも人が沢山溢れている場所を歩くだなんて、祖国に居た頃のオルテンスには想像も出来なかったことである。
ゆっくりと歩くオルテンスの足取りに、合わせるかのようにデュドナたちはゆっくり歩いていくれている。
歩きながらオルテンスはきょろきょろと街中を見渡している。
例えば、街の人々が食事をする食堂。外にメニューが張り出されていて、オルテンスの知らない名前の料理もたくさんある。
例えば、王都を訪れた人々に道案内をしてお小遣いを稼ごうとしている子共たち。そういう風な存在がいることをオルテンスは知らなかった。
例えば、王都の公園。緑が溢れて、ベンチまでおかれているその場には大きな噴水がある。そういう公園というものにもオルテンスはきたことがない。
目に映るもの全てがオルテンスにとっては新鮮で、面白いものだった。
そのすべてがオルテンスにとっては奇跡のようで、こういう世界があるのだなと驚く。
それはその場所で暮らす人たちにとってはどこまでも当たり前の暮らしだけど、オルテンスにとってはそうではないのだ。
オルテンスの目に映る人々は、とても幸せそうに笑っている人ばかりだ。
もちろん、王都に住まう人々が全て、幸福に包まれているかといえばそれは違うだろう。人生には幸せな時とそうでない時があるわけで、幸せではない人だってこれだけ人がおおければ当然いる。
だけれども、そこで暮らす人々は命の危機には瀕していない。誰かに暴力を振るわれるような危機的状況にあるわけではない。そして毎日暮らしていけるだけの幸福がある。
祖国でのオルテンスは、痛いことに怯える暮らしをしていた。だから、メスタトワ王国での暮らしは奇跡だと、夢の中のようだと思っていた。だけど、違うのだと目の前の光景を見ていて気付きそうになっている。
――こうして、痛みに怯えることなく暮らすのが本来ならば当たり前なのだと実感は正直したくなかった。今までの暮らしが当たり前のものではなく、夢のような暮らしが当たり前なのだと思いたくなかった。
それはやっぱりオルテンスがまだ、自分の命は祖国のものだと思っていて、いずれ痛みの満ちた祖国に帰らなければいけないという呪縛に包まれているからだ。
だから、やっぱりまだオルテンスはデュドナに一思いに殺してほしいと思っている。でも流石にお出かけにでかけている場なので、この場ではオルテンスはそれを口にすることはなかった。
「オルテンス、見て回るだけでいいのか。何処かお店に入るか?」
「……えっと」
「お金は気にしなくていい」
一通り歩き回ったオルテンスに、デュドナが声をかければオルテンスは戸惑ったような顔をしている。
「見ているだけで楽しくて。だから、お店に入るの考えてなかったです」
「なんだ、それ。入った方がきっと楽しいぞ」
「そうですよ。入りましょう!!」
デュドナとオルテンスが会話をしているところにミオラが勢いよく言う。ミオラの脳内では、オルテンス様は見ているだけで楽しいなんていって可愛い! でももっと楽しんでもらいたいというそういう気持ちで溢れていた。
「じゃ、じゃあ……あそこに入ってみたいかも。見た目が凄く可愛いもの」
「雑貨屋だな」
オルテンスが指さしたのは、雑貨屋である。ありふれたどこにでもあるようなお店。だけれども外観の可愛さにオルテンスは心惹かれたらしい。
その言葉にミオラは満面の笑みを浮かべていた。あとこっそり護衛している面々もだらしない顔を披露している。
その様子にデュドナは呆れながらも、オルテンスが楽しそうなのでいいかと雑貨屋の中へと入る。
様々なものがおかれているそのお店を見て、オルテンスは嬉しそうに目を輝かせている。
「デューさん、物がいっぱい! これ全部売り物ですか? 凄い」
「そうだな。何か欲しいものがあったら言え」
「でも」
「遠慮はしなくていい。何でも好きなだけ選べばいい」
平民達が買い物をする雑貨屋なので、此処で幾ら買い物をしたところでメスタトワ王国の財政は揺るぎはしない。あとは花嫁候補であるオルテンス用の資金は十分に余っているので、寧ろ使ってもらった方がいいのだ。
オルテンスはもうすでに用意されているものにすっかり満足しているので、新しく何かを買ったり全然しないのだ。なので、寧ろ王城の財政官は「もっとオルテンス様にお金を使ってもらいましょう」と言っているぐらいである。
とはいえ、オルテンスは何かを自分で選ぶというのはしたこともなく、こういう場での買い物などしたこともない。キラキラした目で雑貨を見ながら、どうしようと悩んでいる。
なにかを買ってもらうにしても、何を買おうかと頭を悩ませているのだ。
その様子を見ながら雑貨屋の店員たちも和んだ様子を見せていた。オルテンスとデュドナはお忍びとはいえ、明らかによい所の出のように店員にも見えた。なので入ってきた時には少し緊張したものの、オルテンスの無邪気さにその緊張もなくなったらしい。