冷酷王の元へ妹の代わりにやってきたけど、「一思いに殺してください」と告げたら幸せになった

「私を祖国に帰すまえに陛下に殺してほしいの」

「オルテンス、目が覚めたのか」


 オルテンスはそう言いながらこちらを見るデュドナに驚いた。


「どうした?」
「陛下、いつもと服装違う」


 オルテンスが今まで見ていたデュドナの服装は、完全に王様として働いている時のきっちりとしたものだった。キラキラとしていて、王としての威厳に溢れているような……そんな感じである。だけれども今、目の前にいるデュドナは寝室で休んでいたというのもあって部屋着である。
 それを見て、オルテンスは不思議そうな顔をしている。



「流石に寝る時までああいう恰好はしないぞ」
「そっか。陛下、いつでもああいう恰好かと思っていた。何だか、雰囲気が違います?」
「そうか?」
「うん」


 頷くオルテンスのことを今度はデュドナがじっと見つめている。



「陛下、私に何かついてます?」
「いや、元気そうだなと。あれだけ痛そうにしていたが、後遺症とかはないか?」
「ないです。寧ろすっきりしてます」
「それは良かった」



 デュドナもオルテンスのことを何だかんだ気にかけているので、解除の際に苦しんでいるのを見ていたのもあり、こうやって元気なオルテンスを見てほっとした様子である。
 ほっとした様子のデュドナをオルテンスは不思議そうに見ている。



「陛下も、私のこと、心配してくれてた?」
「まぁ、そうだな。少なくとも俺は関わり合いのある人間が苦しんでいるのを放っておくほど冷酷ではない」
「陛下、冷酷王って呼ばれているけどやっぱり優しいです」
「敵対する奴は殺すぞ?」
「それは優しい陛下に敵対したのが駄目だと思います」



 オルテンスの目から見て、デュドナは敵対さえしなければ痛い真似はしてこない。オルテンスが殺してほしいと言っても殺してくれない。なので、好き好んで人を殺しまくるようなそういう虐殺者ではないのだろうと思う。
 優しいデュドナの意に沿わないことをするのがいけないんじゃないかななどとオルテンスは思っている様子である。




「はっ、そんなことを言うのはお前だけだろうな」


 何て言いながらデュドナは面白そうに笑った。



「……そうだ、陛下」
「なんだ?」
「陛下も、私に自死してほしくない?」
「当たり前だろ?」



 当然のように言うデュドナに、オルテンスはむず痒い気持ちになりながらも温かい気持ちを感じていた。



「まさか、自死しようとしているのか? やめろよ? 出来るようになったからといって、お前が死ぬのは……その、嫌だとは思っているからな」
「うん」



 オルテンスはデュドナの言葉に頷く。



 ちなみにオルテンスの後ろに控えているミオラは「行け、陛下、もっとオルテンス様に可愛いとか大切だとか言うんだ」という気持ちでいっぱいであった。なお、こっそり控えている王家の影も。



「私……陛下も、ミオラもそう言ってくれるからここで自死するのはしないです」



 オルテンスがそう言い切ったことに、デュドナもミオラもほっとした様子である。オルテンスは今にも自分で命を散らしてしまいそうなほどに不安定だった。そんな彼女が死ねるようになっても自分から死なないと言ったのだ。
 それは良い進歩と言えるだろう。




「それは良かった。……ってお前、今、ここでっていったか?」
「うん。この国での暮らしはまるで夢みたいで、とっても楽しくて……私にとって天国みたい。痛いことも全然ないし、私のことを皆心配してくれてる。それに今まで経験したことないこと、沢山させてくれる。だから、なんか夢だって思ったけど。この現実、楽しいなって」



 いつか覚めてしまう夢。
 夢のような空間。
 そう思っていたけれど、この楽しい夢は現実で。
 その現実が楽しくなるなんてオルテンスは考えた事もなかった。



 そもそもいないももののように、痛い目に遭わされながら生きてきたのがオルテンスだった。
 オルテンスは現実が楽しくなることをここで初めて知ったのだ。



「だから、陛下……。私を祖国に帰すまえに陛下に殺してほしいのです」



 懇願するようにオルテンスはデュドナのことを見る。


 ここでの楽しい現実。そこから祖国に帰れば、オルテンスが嫌がる痛い日々が待っている。
 前よりもより一層、大変な目に遭うかもしれない。いや、違う……、この楽しい現実を知ってしまった後にあの日々に戻るとオルテンスは耐えられないと思った。
 これだけ心配されて、楽しい日々の後に……ただ虐げられる日々は無理だと。
 そんなオルテンスの言葉を聞いて、デュドナは溜息を吐いた。



 真っ直ぐにデュドナのことを見ていたオルテンスは、やっぱり殺してくれないのかな? と不安そうな顔をする。
 そんなオルテンスにデュドナは言う。



「だから、お前を俺は殺さない」
「でも……此処での楽しいの後に、帰ったら私は……」
「前も言っただろう。この国に居ればいい。寧ろこの国に居ろ。俺はお前を国に帰す気はない」
「え?」
「この前、自分の命は国の物だからとか言っていただろ。俺が無理やりこの国に留めているってことにすればいい。それか死んだことにして、この国の国民になるでもいい。お前にはもう魔力による誓約もかけられていない。だから……強制的に国の為に命を捧げる必要はない」


 デュドナはそんなことを言い切った。


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