冷酷王の元へ妹の代わりにやってきたけど、「一思いに殺してください」と告げたら幸せになった

「私に出来ることって何かないのかなぁ」

 さて、オルテンスはこのメスタトワ王国で生きていくことが決まった。


 それはオルテンス自身も了承したことである。
 この国で生きていく。あんなに痛みに満ちていた祖国には戻らないことを決めた。


 本当に良いのだろうかという気持ちはある。でも、デュドナがこの夢を見続けていいと言ってくれたから。
 このままずっとこの国にいることを思うと、オルテンスはふわふわした気持ちになっていた。



「オルテンス様、何だかにこにこしてますね」
「……この国にずっと居れると思うと、何だか嬉しくて」
「可愛い! 可愛いことを言ってますよ、オルテンス様。幾らでもいてくれていいんですからね?」



 オルテンスの言葉にミオラは感涙極まったといった表情で、思いっきりオルテンスを抱きしめる。ちなみにミオラ以外の侍女たちもその後順番にオルテンスに抱き着いていた。
 何で抱き着くんだろうとオルテンスは思いつつ、可愛がられていることは分かるので小さく笑った。



「この国って本当に天国みたい。皆優しくて、私によくしてくれていて……」
「それはオルテンス様がオルテンス様だからですよ。こーんなに可愛いオルテンス様のことを可愛がらない方がどうにかしているのです」
「ふふ、私、可愛いの?」
「はい。とっても可愛いですよ! 今の自分を可愛いのかな? って受け入れている様子も凄く可愛いです。それにオルテンス様は陛下の花嫁候補としてきているけれど、陛下を自分の物にしようみたいな動きはないでしょう?」
「……陛下を私の物にする? そんな恐れ多い……」
「もう、可愛いですね。オルテンス様は。オルテンス様は花嫁候補ですし、もっと陛下を自分の物にしよう! ってして大丈夫ですよ? 寧ろ陛下はオルテンス様がそう言う行動をしても拒まないと思います。押し倒してもいいです」
「お、押し倒すって、ミオラ、過激なことを言い過ぎよ」



 顔を赤くするオルテンスを見て、ミオラは顔をにやけさせている。
 可愛いなぁとどうやら思っている様子である。



「えっと、私はこの国に留まってもいいって陛下は言ってくれたけれど……それはあくまで国民としてよ。陛下が私みたいなのを妻にするわけはないもの!」
「私みたいなのってまたそんなことを言って……。オルテンス様はとっても可愛いので、多くの人たちが求めて当然なんですよ? 食事もきちんととって、着飾っているオルテンス様はとっても綺麗ですもの。それに中身は可愛いし、最強ですよ、最強。それにオルテンス様、着やせしているだけで胸も結構大きいじゃないですか」



 そんなことを言いながらミオラはオルテンスの胸を凝視する。


 服を着ていると分からないが、オルテンスの胸はそこそこ大きいというのをお風呂の世話もしているミオラは知っていた。
 王城に務める者達の多くは、このままオルテンスがデュドナの妃になることを望んでいるので……、そのまま押せ押せと思っている。
 何だかんだオルテンスと仲よくしているデュドナのことなので、オルテンスが押し倒して既成事実が出来たとしたらそのまま受け入れるだろうと思っている。折角オルテンスがメスタトワ王国に留まることを決めたわけだが、ミオラたちはそれだけではなく妃になる方がいいと思っている様子。そもそもオルテンスがただ国民になるだけでは、このまま可愛いオルテンスをずっと見てられないので、デュドナとくっついて欲しいようである。



「ミオラは凄く、私のことを過大評価しているよね……。そんな風に私のことが欲しいなんて言う人いるわけないでしょ。それよりね、私、こうしてこの国に留まってもいいって言われたのだから、なんていうか、その……私に出来ることって何かないのかなぁ」
「オルテンス様はいるだけで癒しですよ?」
「も、もう!! そういうことではなくてね。あのね、私ってこのままじゃただとどまっているだけでしょ。ただの花嫁候補としていて、いつか祖国に帰るっていうなら良かったかもだけど……。その、ずっとここにいるならそのままじゃ駄目なんじゃないかなって思って……。私は陛下が許してくれて、この国に留まってもいいよって言われたけど、私ってずっと陛下たちに与えられてばかりだから」
「オルテンス様は難しく考えすぎです! オルテンス様の価値なんているだけでいいのです! でもそこまで言うのならば、陛下に聞きに行きますか?」
「うん」


 オルテンスのことをいるだけでいいなんていって彼らは甘やかす。


 本当にそこにいるだけで許されてしまうような……そんな気分にオルテンスはなる。
 だけれども、ずっと価値について語られてきて、いらないものだと言われ続けていたオルテンスは自分の価値を示せたら……と思ってしまった。
 自分に何の価値もないと、つい最近まで思っていたのに、もし示せるならと考えている自分の変化にオルテンスは驚いていた。
 





「陛下、私、何か出来ることありますか?」
「……なんだ、突然」


 そしてデュドナの執務室に押し掛けたオルテンスの問いに、デュドナは呆れたような顔をするのであった。

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