虎の威を借る狐姫と忍び
○○○


 手際よく対象を始末した上司の手腕に、左之助はむすりと不機嫌を隠さなかった。

「おせぇ。手間取りすぎ」
「……すみません」
「一人ぐらいさっさと仕留めろ」
「今日は調子が悪かっただけです」
「口だけは達者だな」

 先ほどまで左之助と打ち合っていた男がしっかりと息絶えたのを見て、上司はふっと鼻を鳴らした。
 まだまだ甘いなと言われた気がして、左之助の機嫌はさらに悪くなる。

「おら、さっさと止血しろ。血生臭いまま城に戻るな」
「……わかってますよ」

 上司に言われてから斬られた肩の痛みを思い出す。
 肩を手で押さえると、ぬるりと滑って止血が出来そうになかった。
 仕方なく布を当てきつく縛り付け、先を行く上司の後を追う。


 そういえば、久々に刀傷を受けた。

「いってぇ……」

 誰にも聞こえないくらいの声でつぶやいた。



 先の大戦、天下の覇者を決める戦いが終わって早数年が経過した。
 まだ若干の不安定さはありつつも、統治者が決まったこの国は徐々に太平へと向かっていた。
 しかし平和な世になってきてはいるが、各国同士牽制や諜報は終わることはない。

 そんな時代のとある国に、仕える忍者がいた。


 彼の名は、上月左之助。
 若干十六歳。青年と呼ぶにはまだ若い忍者であった。
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