虎の威を借る狐姫と忍び
○○○
その日、早朝から上司である『以ノ三』から呼び出された左之助は思わず絶句してしまった。
「なっ、んで俺が以組から外されることになるんですか……!!!!」
上司から、唐突に、突然に辞令が下ったからである。
先の大戦、天下の覇者を決める戦いが終わって早数年が経過した。
統治者が決まったこの国は徐々に太平へと向かっている。
都から遠く離れた北の土地、廣崎も例にもれずこの数年のなかで一番平和な時間が流れている。
諸国に比べれば小さいが、それなりに栄えた城下を有する廣崎は、豊かな食料や、海を挟んだ北国との交易に加えて、冬になればだれとして攻め込めぬ雪深さが有名だ。
そんな廣崎に、左之助が雇われたのは丁度一年前のことだった。
「ま、まさか、クビと言うことですか……!?」
(それだけは勘弁してくれよぉ……)
平和に近づいたといっても。まだまだ国内は不安定だ。
雇い先を探すのも一苦労した左之助は、就職活動を思い出してぶるりと震えた。
また一から仕事を探さなければならないかもしれないのは御免だった。
(この前の任務、一人で始末できなかったからか?)
忍び軍から追い出される理由なんて、それくらいしか思いつかない。
しかしながら、左之助は今年入った忍びの中でも優秀な部類に入る。
左之助自身もそれを自負しており、また当主直属の忍び軍の一派『以組』に所属できたのが優秀さの証拠だった。
だからこそ今回の辞令が受け入れられない。
そんな左之助を知ってか知らずか、上司である以の三は冷静に続ける。
「それは違う。忍び軍から外されるというわけではない」
「は?」
「以組から移動すると言うことだ」
「移動でございますか?」
「ああ」
以ノ三は短く肯定する。
「以組からの移動と言うと、呂組か波組ですか」
左之助は忍び軍の他の組を思い返した。
左之助が勤める忍び軍は、頭領の下に三人の組頭がおり、それぞれ十名から三十名程度の部下を抱える組織図になっている。
以組は、津路家当主たる津路為虎様に。
呂組は、為虎様の御正室の御万の方様に。
波組は、武人と共に戦場を駆ける戦忍びとしてこの国に。
それぞれの組がそれぞれの得意分野を活かして国に仕えているのだ。
左之助が移動と言われ真っ先に考え付いたのは波組だ。体・技術を一から鍛え直せと言うことだろうか。
そんな左之助の頭の中を読んだかのように、以ノ三は素早く否定した。
「お前が移動するのは呂組でも波組でもない」
「……ではどこに」
以ノ三は至っていつも通りに言葉を放った。
「お前が行くのは、二の姫君のお付きの忍び隊だ」
その日、早朝から上司である『以ノ三』から呼び出された左之助は思わず絶句してしまった。
「なっ、んで俺が以組から外されることになるんですか……!!!!」
上司から、唐突に、突然に辞令が下ったからである。
先の大戦、天下の覇者を決める戦いが終わって早数年が経過した。
統治者が決まったこの国は徐々に太平へと向かっている。
都から遠く離れた北の土地、廣崎も例にもれずこの数年のなかで一番平和な時間が流れている。
諸国に比べれば小さいが、それなりに栄えた城下を有する廣崎は、豊かな食料や、海を挟んだ北国との交易に加えて、冬になればだれとして攻め込めぬ雪深さが有名だ。
そんな廣崎に、左之助が雇われたのは丁度一年前のことだった。
「ま、まさか、クビと言うことですか……!?」
(それだけは勘弁してくれよぉ……)
平和に近づいたといっても。まだまだ国内は不安定だ。
雇い先を探すのも一苦労した左之助は、就職活動を思い出してぶるりと震えた。
また一から仕事を探さなければならないかもしれないのは御免だった。
(この前の任務、一人で始末できなかったからか?)
忍び軍から追い出される理由なんて、それくらいしか思いつかない。
しかしながら、左之助は今年入った忍びの中でも優秀な部類に入る。
左之助自身もそれを自負しており、また当主直属の忍び軍の一派『以組』に所属できたのが優秀さの証拠だった。
だからこそ今回の辞令が受け入れられない。
そんな左之助を知ってか知らずか、上司である以の三は冷静に続ける。
「それは違う。忍び軍から外されるというわけではない」
「は?」
「以組から移動すると言うことだ」
「移動でございますか?」
「ああ」
以ノ三は短く肯定する。
「以組からの移動と言うと、呂組か波組ですか」
左之助は忍び軍の他の組を思い返した。
左之助が勤める忍び軍は、頭領の下に三人の組頭がおり、それぞれ十名から三十名程度の部下を抱える組織図になっている。
以組は、津路家当主たる津路為虎様に。
呂組は、為虎様の御正室の御万の方様に。
波組は、武人と共に戦場を駆ける戦忍びとしてこの国に。
それぞれの組がそれぞれの得意分野を活かして国に仕えているのだ。
左之助が移動と言われ真っ先に考え付いたのは波組だ。体・技術を一から鍛え直せと言うことだろうか。
そんな左之助の頭の中を読んだかのように、以ノ三は素早く否定した。
「お前が移動するのは呂組でも波組でもない」
「……ではどこに」
以ノ三は至っていつも通りに言葉を放った。
「お前が行くのは、二の姫君のお付きの忍び隊だ」