隠れSだって、優しくしたい!!(……らしい)
・・・
「何ぽかんとしてるんですか。間抜けな顔したって、帰してあげないですよ」
まさか、こんなことになるなんて。
そう思ったのも本当なのに。
「……まさか、戸田くんの部屋に来ることになるなんて」
「変な人ですね。安いホテルにでも、連れ込まれたかったんですか。生憎、俺無理なんですよ。ああいうとこ」
そんなことが思い浮かぶなんて、どうかしてる。
「どこでもいいよ。さっさとやることやって、帰らせて」
本心だけど、口に出したのはせめてもの反抗。
「さっさとやることやるのは、賛成ですけど」
まずかったと思う。
怒らせらない方が、今後の為にもなるのかもしれない。
それでも。
「帰れるかどうかは、あんたの態度と、俺の気分次第なんだよ」
顎を持ち上げられ、無理やり上を向かされ。
身長差が、立場を表しているとでも言いたげな行動。
そんなものに、大人しく従う気はさらさらない。
「先輩って、つくづく不器用なんだね。怯えたふり、可愛い子ぶって、たった一回我慢してたらそれで終わったかもしれないのに。泣き落としとかは考えなかった? それとも、もしかして」
――本当は怯えてるから、そうやって噛みついてんの?
「もしくは、わざと怒らせて荒っぽくされたいのか。じゃなきゃ、よっぽど馬鹿としか思えない」
「全部、否定する。そっちこそ、そうやって言葉の裏読みたがるのどうして? もしかして、よっぽど過去に何かあったとか? 」
戸田くんの目がすっと細くなればなるほど、私は閉じたくなるのを無理やり開けた。
「……やめよ。ごめんね、先輩。期待に添えなくて。俺、乱暴するのは好きじゃないんだ。やる時にさ、わざわざ嫌な気分になることないじゃん。楽しくやろうよ、ね」
「……脅迫されて、どうやって」
怖くないわけじゃない。
怯えてみせてあげたくないだけ。
今度こそ激昂するかと身構えたけど、戸田くんはパッと顎から指を離し、何事もなかったようににっこりと笑う。
「最初はそうかもしれないけど。でも、どうあっても俺はやめる気ないから、先輩も気持ちよくなった方が楽だよ」
「古くさい何かの台詞みたい。気持ちよくなれるかどうかは、それこそ戸田くん次第なんじゃないの」
ほっと短く吐いた息が聞こえないように、また強く言い返す。
「確かにね。ほぼ童貞は頑張らなきゃ。もし上手にできなかったら、強情張らずに教えてくださいね。じゃないと僕、ずーっと延々、先輩をイかせてあげられないかも……そんなの、辛いですもんね? 」
――それともやっぱ、そういうの好き?
敬語の時の、甘く穏やかな口調と。
タメ口の時の、最低で偉そうな口調。
「あ。本当にホクロあった。同一人物って証拠」
「べ、別にホクロなんて珍しくない……」
ボタンを外されるだけの短い間に、これだけ聞かなくちゃいけないの。
「それもそっか。じゃあ、確認させてもらうね。あーおこ、さん」
本名を読んで、ホクロのある鎖骨辺りに口づける彼の瞳を、今度は私が上から睨みつけた。