忘れたまんまの君がポケットに入れていたのは青い日の恋かもしれないと先生は云った

ナガレside

おれが愛車を
近くの車庫に入れて、
母屋に帰ると、玄関の土間には
珍客が
1人、待って居た。

「ナガレー。お久ー。」


中学卒業以来、
ほとんど会っていない
シュウジロウだ。

「おま、シュウジロウ!何?
どーした?!え、どうした」


髪を異様な程、
生真面目に黒く染め上げている
からか、
イメージが定まらないが、
間違いなく
おれの
恋バナの聞き役、シュウジロウだ。

懐かしいはずなのに、
どこか軽い感じが変わらない。
もう10年会っていないのが
嘘みたいだ。

「いや、懐かしくてよ、寄った。
元気そうだなナガレ。麦茶、
出してもらってるよ。」

シュウジロウは
片手に持つ
麦茶のコップを上げると、
氷の音を立てて振った。

見ると『上がり』には、
黒盆の上に、
ガラス茶瓶まで置いてある。

「シュウジロウ、いつ以来か?
卒業してからか?学校違うから
会うって感じじゃなかった
しなってってのも変な話か。」

こんなに気さくな感じだが、
シュウジロウとツルんでいたのは
塾の時だけだった。

玄関で待っている辺りが、
野郎仲間。
近所に住む間柄なら
門の辺りで
タバコを吹かして立ち話になる。

それが、
まるで幼馴染みみたいに、
玄関に座っているシュウジロウが
続けて話す。

「そんなもんよ。お互い、
通学も早い時間だろ?あー、
その、なんだ。サユと、1回
一緒になった事あったろ?
アレ以来じゃないか?」

シュウジロウは、
ポケットからタバコを出して、
箱のケツをトントンと
指で叩き出すと、
言った。

おれも、シュウジロウも
男子学校組だ。

シュウジロウの方が、
進学校で遠方だった為か、
やたら早くの通学時間。

それでも1度だけ、
一緒の電車になった事がある。

「あー。あの時な。えっと、
シュウジロウが、寝坊して
おれ達と電車が被った時か。」

おれは、
シュウジロウが
タバコに火を付けるのを
見ながら、
どこか
不思議に思いつつも答えた。

シュウジロウは、

「あのさ、あの時は、たまたま
ナガレとサユが同じ電車だった
って話だったよな。あれって」

煙を横から吐きながら、
斜に構えた視線を
おれに
向けて聞いてくる。

もう昔の話だ。

「ごめんウソ。合わせてた。
サユの時間、調べて。」

今更だろうし、白状する。

「だよなー!やっぱ!」

シュウジロウは空いた方の手で、
自分の額を軽く叩いた。

その仕草も合わせて、
どこか軽いノリになったなと
シュウジロウに思う。

同時に、
塾時代に戻った気になって、
あの頃のノリでしゃべって
しまうのだ。

「でも、学園が同じの奴らが
同じ電車に乗ってるのが、
分かる様になってからは、
大変でさ。サユと偶然に
乗り合わせるのがムズくて」

「あれだ、けっこう、
あの時間帯って混むだろ?
あの時もぎゅうぎゅうでさ。」

考えてみれば
中学時代、
サユの事を知っているのも
シュウジロウだけだった。

塾での、
おれの様子から聞いてきたのが
始まりだ。

『速瀬は→竹花か? 』

塾の間に、
隣からノートに書いて見せてきた
シュウジロウ。

小学校が違うから、
シュウジロウが
どんな奴かを知らなかった
おれは、
鋭い書き込みに固まったっけ。



「だから、声かけやすかったな。
女子、嫌だろ?チカンとか
気にするしな。だから、朝
乗り合わせて、行けそうなら
隣、立ったりしてたよ。」

高校の通学電車を
思い出して懐かしくなる。

そんなおれの言葉に、
シュウジロウは目を見開いて、
笑った。

「はは!やるな!ナガレ。
懐かしいな。で?ナガレは
ずっとこっちで仕事もか?」

シュウジロウは、
そうして黒盆に置いてあった
コップを
おれの目の前に差し出してくる。

「おう、車のディーラーな。
シュウジロウは?大学はよ?」

コップを受けとると、
シュウジロウがガラス茶瓶から
麦茶を注ぐ。
どちらの家なんだかだ。

「俺な、大学は上京だ。で、
向こうで就職。けれど、会社が
この時世で人員整理でさ、
派閥負けで辞めたわ。都落ち」

「都落ちって、、」

「カッコわりーよ。おかげで、
バツ付いたわ。うちは、子供
まだいなくてよ。ざまねぇ。」

おれのコップに注いだ後、
シュウジロウは空いた
自分のコップにも、

どこか寂しそうに、
並々と麦茶を入れた。


「実家、戻ってんのか?」

水面張力で盛り上がる、
向かいの麦茶を見つめたまま、
おれは、気まずげに聞いた。

「ん。仕事も、役所のセカンド
ワークに空きあって入れた。
安定の地方公務員ってか。」

シュウジロウの答えで、
生真面目に染められた
黒髪の意味が
腑に落ちる。

「まあ、まだこれからだな。
戻ってるなら、嬉しいよ。」

汗をかいてきたコップから、
おれは、勢いよく
麦茶を喉に流し込んだ。
ここは残念ながらビールはない。

この後に出席する会の為にも。

「今日の同窓会で、再婚相手
見つけっかなー。丁度出会い
のチャンスになるわな。」

緩んだ気持ちでいた、おれは
一瞬シュウジロウの言葉の
意味が解らなかった。

「、、小学生とか知ってる
ので、そーゆーの、ないだろ」

思いもよらない、
とも、言えなくもない、か。

「何言ってんだ?!ナガレ。
同窓会なんて、そんなもんだ
ろ?独り者だけじゃないだろ?
野郎なら、皆んな考える事は、
おんなじだろーが?!な。」

シュウジロウは、
どこか心外だという顔を
向けてくる。

一瞬考えて、
おれはシュウジロウに
確認するように
聞き返した。

「そういう、もん、か?」

「そーだろ?違うか?ま、
あれだ。田舎だからな、
こーゆー機会、モノにせにゃ
もったないってもんだろ。」

シュウジロウは、
溢れるほど入れた麦茶を、
ゴクゴクと
喉をならして、
飲み干す。

おれは、黙って
シュウジロウの喉仏の
動くのを見ていた。

「ぷはー。やっぱ、水が
違うってのか?麦茶でさえ、
やたら上手いわ!ごっそさん」

そうして
まるで部活後に水分補給した
みたいな顔を見せると、

シュウジロウは片手を上げて

「後でな。」

網戸を掛けた玄関の引戸から、
夕方迫る外へと出て行った。

「何しに、来んだ。」

てっきり、
一緒に同窓会場に行くつもり
だった、
おれを残して。






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