突然ですが、契約結婚しました。
あーぁ、せっかくいいお店見つけたのになぁ。今後来づらいなぁ。ていうか、今日はどうしよう。まだ飲むつもりだったけど、さすがに主任がいるんじゃ落ち着かないし。
眉間に皺を寄せて考えていると、左隣から視線を感じた。振り向くと、主任が真剣な目でこちらを見ている。

なんですか。そう聞くと、彼は真剣な顔つきのまま口を開いた。

「なんでおまえ、そんなに際どい格好をしてるんだ」

……ん? キワドイカッコ? 何のこと、と視線を自分に落としてハッとした。
たぶん普段のスーツ姿からは想像もつかないような、露出の多いワンピースにハイヒール。顔を合わせた時に、小澤か? とやや訝しげに訊ねられたのは、仕事じゃ絶対にしないような派手なメイクをしていたからかもしれない。

やばい。こんな姿、湯浅にすら見せたことないのに。
会社の人に……よりによって主任に見られるなんて。今日はとことんツイてない!

「主任は好きですか、こういうカッコ」

っておーい私! この堅物相手に、トチ狂って何を聞いてるんだっ! 色んな逃げ口上を模索して、よりによって出てきたのがこんな言葉なんて。
何を言ってるんだって、冷たく遇らわれるに──

「まぁ、嫌いではないな」

おっとぉ?
どういうことだ。この人からも、普段からは想像出来ないような言葉が飛び出たような気がしたぞ?

「ははっ。真緒、既に結構飲んでるだろ」
「え、そうなんですか?」
「うん。あんまり見た目じゃわかんないけど」

言いつつ、主任の前に差し出されたグラス。透明の……中身は水?

「おい大河。酒って言っただろ」
「一旦クールダウンしろって。ほら、タマちゃんも」

主任同様、私の前にも水の入ったグラスが置かれる。目をぱちくりさせる私をよそに、主任が不満げな声を上げた。

「今帰ってきたところなんだぞ。労われよ」
「労わるからこその水だろ。どうせ、新幹線の中でもロクに水分とってないだろ」
「新幹線って……主任、どこか遠くまで行ってたんですか?」

口を挟んだ私を、主任が一瞥する。いつものように険しいカオ。けどちょっとだけ、何かを堪えているようにも見えた。

「……地元だよ。大阪。トンボ帰りだけどな」
「え! 主任、大阪出身だったんですか? 知らなかった。ってことは、関西弁話せるんですか?」
「話せるも何も、俺の前ではずっと関西弁だよ。な、真緒」

タイガさんに視線を送られて、主任は眉間にぐっと皺を寄せた。

「余計なこと言うな」
「いいやん、減るものじゃないやろ?」
「そういう問題じゃねぇ。つうか、下手な関西弁使うな」
「出た、関西人の下手な関西弁嫌い」
「お前みたいなのがいるから嫌いになるんだ」

わぁ。こんなふうに軽口言ってる主任、初めて見た。
< 13 / 153 >

この作品をシェア

pagetop