突然ですが、契約結婚しました。
「いやー、楽しかったですねぇ」
「あぁ。久々の飲み会だったからな」

金曜日の夜の空気をそのままに、並んで夜道を歩く。静まり返った住宅街は、どこか気配を潜めているような気さえした。

「偕成病院の案件もひと段落つきましたし、ようやく落ち着けますね」
「そうだな。明日は土日だし、ゆっくり休めよ」
「主任こそ」

土日は極力家でお篭りしよう。最低限の買い物は必要だとしても、それ以外は部屋着で思う存分ダラダラしてやるんだ。
と、意気込んでいた時。

「ん?」
「ん」

パンツの後ろポケットに入れていたスマホが震えた。社用携帯はカバンの中だから、私用のほうだ。断りを入れつつ画面を確認すると、今し方届いたメッセージの主は湯浅だった。

「え!?」
「はぁ!?」

再び主任と声が重なって、顔を向けると主任もまた目を見開いてこちらを見ていた。その右手には、シンプルな黒のケースがついた私用スマホ。主任は心底気まずそうな顔をしていて、私もまた鏡のようになっているのだろうと思う。

「す、すみません主任……。お休み、ゆっくり出来ないかもです……」
「……悪い、俺もだ」

長い溜め息を吐きつつ、お互いにスマホの画面を見せ合う。そこには、それぞれ湯浅と“穂乃果”という人物からの、自宅訪問のアポイントが表示されていたのだった。



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