突然ですが、契約結婚しました。
複雑。複雑すぎる!
ご両親にお会いした時みたいに繕えばいいやーなんて軽く考えていたけれど、それじゃだめじゃん。どういう空気が繰り広げられるの。っていうか、冷静に考えてどういう状況なの。言い出しっぺの私が言うのもなんだけど、某小学生探偵もびっくりの難解ミステリーだよこれは!

「私、普通に妻として振る舞っていいんですよね?」
「……あぁ。うちの親の認識との齟齬が出ないように頼む」
「かしこまりました。じゃあ、設定はいつもの感じで。あとは、臨機応変に」
「そうだな。よろしく頼む」
「こちらこそです」

以上、第2回会議終了。散会。
ぐうたらナマケモノ休日を過ごす予定が……。
嫌じゃない。嫌ってわけじゃないんだけど。んー、休まらないなぁ〜!


約束していた10時少し前にインターホンが鳴った。モニターを確認すると、やはり湯浅が映し出されていた。

「はいはーい。今開けるー」

オートロックを解除し、画面の向こうにいる湯浅に声をかける。駅まで迎えに行こうかと打診したものの、無理言って押し掛けるのはこっちだからと断られたのは昨日の話。
お天気お姉さんは今日も猛暑だと言っていたし、駅近とはいえ暑かっただろうなぁ。

「主任、湯浅来ました。準備、大丈夫そうですか?」
「あぁ、問題ない」

湯浅がエレベーターで3階に登ってきているであろううちに、最終確認。
来客対応に主任が選んだのは、ブランド物のネイビーのポロシャツと、丈が短めのすっきりとしたスラックスだ。悔しいほどに足がすらっと長い主任に、こういった服はより映える。同僚だということを差し引いても、妻の友人に好印象を与えるには十分な格好だと思う。
対する私も、白いブラウスと薄いイエローのフレアパンツで綺麗めな格好を選んだ。湯浅はまだしも、その後の来客に備えてのチョイスだ。

「お邪魔しまーす」

玄関のインターホンを合図に扉を開けると、さらりと涼しげな水色のワンピースを風に靡かせた湯浅が立っていた。

「案件が落ち着いた途端に押しかける形になっちゃってごめんね」
「ううん、昨日ゆっくり出来たし。それに、落ち着くタイミング待って連絡くれたでしょ」
「あはは、バレてた?」
「バレバレ。まぁ、上がってよ」

湯浅を連れてリビングの扉を開けると、ソファーに腰掛けた主任が出迎える。その口元は、僅かに微笑んでいる……ですと?

「いらっしゃい」
「お邪魔します、柳瀬主任。お休みのところ押しかけてすみません」
「気にするな。ゆっくりして行ってくれ」
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