どっぷり愛して~イケメン社長と秘密の残業~


「会社入ってすぐの頃に子宮の病気になって、子宮全部取っちゃったの。だからさ、子孫は残せない体なんだ」


言葉を失った。

天真爛漫、いつも笑顔で、みんなの憧れ、
私にとってはスーパースターのような人。

そんな重いものを背負っていたなんて。


「社長みたいな優秀な遺伝子、絶対に後世に残すべきなんだよ。だから……私は自分から離れた。社長が結婚なんて考えてないのはわかってたけど、本気になるとやっぱり私だって考えちゃうと思うしね。そうなった時に、子供ができないってことはやっぱり言えないもん。社長だよ?結婚してから子供がなかなかできないのと訳が違う。社長の相手は私じゃないって、身を引いた」


私は、こんな涙は初めてだった。

泣いているつもりはなかったのに、目から涙が溢れだしていた。




「そんな…… そんな悲しいことってないです。どんな気持ちで吉岡先輩が身を引いたのかって考えたら……もう」


「なんで、あんたが泣くのよ。これで良かったの。佐竹と付き合えたし、幸せだもん。佐竹は、私の体のこと知っても、何も変わらない。子供別にいらないって言ってくれる」


「佐竹さん、大きいですね。なんか、もう、びっくりしすぎてどうしていいかわかんない」


「そりゃそうだよね。この若さでこんなのって珍しいかもね」


「というか、吉岡先輩がそんな辛い悩みを抱えているっていうのが信じられないというか…… どんな気持ちで乗り越えたんだろう、とか、病気が分かったときどんなにつらかっただろうとか…… だって、いつも笑顔でみんなに幸せをくれる人だから、それがなんで」


私をそっと抱きしめた吉岡先輩は、穏やかに言った。


「小久保、あんた優しいね。私は、私だから乗り越えられるって思った。小久保がそんな病気になったら私いやだもん。私で良かった」


涙が止まらなかった。

いろんな感情がごちゃごちゃになって、おかしくなりそうだった。

圭史さんのことを本気で好きだったというショックよりも、身を引いた吉岡先輩の気持ちの方が私の胸に突き刺さる。



そしてこの時、なぜか心の中に浮かんでいたこと。



圭史さんと吉岡先輩には、ちゃんと話してもらいたい。

圭史さんは、吉岡先輩の気持ちを知った方がいいんじゃないかって……。


いっぱい泣いて、いっぱい飲んで、酔っ払いながら私はこのままじゃダメだと思った。








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