大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
 おおっとっ、とベッドから落ちかけた咲子の腰を行正が支えた。

 ひーっ。
 行正さんが私に触れてますっ、と固まる咲子に行正が訊いてくる。

「この屋敷は気に入ったか」
「は、はい」

「このベッドは気に入ったか」
「は、はい」

「使用人たちは気に入ったか」
「はい」

 行正はそこで沈黙した。

 咲子は行正の目を見てしまった。

 感情などないかのような行正の瞳は、つるんとしていて美しく、まるで本物の人形のようだった。

 だが、そこで、明らかに人形のものではない、熱く大きな行正の手に、ぐっと力が入った。

 強く腰を引き寄せられたとき、行正の心の声が聞こえてきた。

(はら)ませて捨てよう』

 ひっ。
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