恋なんてしないと決めていたのに、冷徹御曹司に囲われ溺愛されました
 俺は門の外で美鈴が弟をお迎えする様子を見ていた。
 正面玄関前で、保育士とやり取りした後、美鈴は彼女に似た利発そうな男の子をギュッと抱きしめる。
 その光景を見て、昨夜酔っていた彼女に抱きしめられたことを思い出した。
「まるで生母マリアだな」
 俺の母親も彼女みたいに優しい人だったら……少しは俺も人間らしく育っただろうに。
 じっと見ていたら、保育士との挨拶を済ませた美鈴と彼女の弟がこちらにやってきた。
「家まで送っていく」
 俺がそう言うと、彼女は「近いから大丈夫だよ」と笑って断った。
「ねえ、そのお兄さんは誰?」
 美鈴の弟が彼女の洋服の袖を掴んで尋ねたので、俺はスーツの内ポケットから名刺を取り出して自分の私用携帯の番号を書き、屈んで彼に手渡す。
「初めまして、一条絢斗です。お姉さんとはお友だちなんだ」
「美鈴の友だち?」
 歩くんは俺と美鈴を交互に見る。
「お姉ちゃんの会社のとっても偉い人だよ。将来社長になるの。子供に名刺渡すって一条くんらしいね」
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