恋なんてしないと決めていたのに、冷徹御曹司に囲われ溺愛されました
「いえ……あの……今日は持って……ません」
「そうか。警察でじっくり話を聞こうか?」
 菊池さんが鮫島の首根っこを掴んで私と歩から引き剥がし、スマホを出して警察に連絡を取る。
「あー、すみません。不審な男が女性の部屋に押し入って暴行を。すぐに来てください」
電話を終えた菊池さんに一条くんは、「その男、縛って逃げなようにしておけ」と言って自分のネクタイを外して渡し、私と弟の肩に手を置く。
「美鈴、歩くん、大丈夫か?」
 こんなこと、前にもあった気がする。
 こんな風に彼が助けてくれて……。
 もう大丈夫だって……思ったん……だ。
 歩も……無事。よかっ……た。
 遠くでパトカーのサイレンの音がする。
「……うん」
 一条くんに返事をするが、安心したせいか身体の力が一気に抜けて、そこで記憶が途切れた。

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