恋なんてしないと決めていたのに、冷徹御曹司に囲われ溺愛されました
鮫島の手を振り払おうとしたが、彼はさらに手に力を込め、私を連れて行こうとする。
「美鈴に手を出すな!」
 歩が飛んできて鮫島の腕に噛み付く。
「うっ、痛て! このガキが!」
 彼がカッとなって歩に拳を振り上げようとする。
「やめて!」
 歩の身体を庇うように多い被さったら、耳元でよく知った声が聞こえてハッとした。
「女と子供に暴力を振るうなんて最低だな」
 周囲の空気を凍らせそうなほど怒りに満ちた冷淡なその声。
 怖いはずの声が、私には神の声に聞こえた。
 ……一条くん?
 ゆっくり顔を上げると、一条くんが母の元彼の腕を掴んで捻り上げていた。
 一条くんの後ろには菊池さんがいてうっすら口角を上げて、私たちを見ている。
「い、痛てて。そ、その女が母親の借金を返さないのが悪い」
 鮫島は一条くんにすっかり気圧された様子で、顔を歪めながら小声で弁解する。
「母親の借金ね。だったら当然借用書はあるんだろうな?」
 一条くんがギロッとひと睨みすると、鮫島は震え上がった。

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