断罪された公爵令嬢は元婚約者の兄からの溺愛に囚われる

 イーサン元第二皇子の名に傷がついた事案である、あの婚約発表パーティーでの断罪劇。わたくしへの侮辱罪の撤回に、リリアン男爵令嬢の乱交について、全て罪を擦りつけるために誘拐したのかしら。あと隣国の王女様の殺人未遂も付け加えられるのかもしれないわ。

 全てはジャックさまと婚姻するために行った悪事とでも言われるのだろうか。

(ジャックさまに会いたい……)

 いくら、誘拐への対策について学んでいたって、このような事態は初めてで、心細くなる。
 震える手を必死に抑えて、じっと耐えるしかない。

 でも絶対に逃げられる隙はあるはず。一つでも選択を間違えれば殺害されてしまうかもしれないけど、絶望するほど最悪な事態ではない。

 しかし、救助を待つことは難しいだろう。だって、犯人は皇族であるハーゲン皇弟殿下なのだから。必ず妨害されるはず。現に警護して下さっていた近衛兵は、わたくしから目を離してしまったもの。

(ジャックさまは、わたくしが時間になっても現れず、心配なさってるだろうな……)

 すると、馬が嘶く。馬車の進む速度が徐々に落ちて、完全に止まった。

 もしかしたら接触があるかもしれない。慌てて目を閉じて気絶しているフリをする。

 ――嗚呼、心臓の音がうるさい。

「兄貴、起きてくれよー! 一度目の目的地に着いたぞー!」
「すまん。寝ていた」
「令嬢が静かで怖いんだよ。一緒に見に行こうよ」
「きっとまだ寝ているのだろう。さっさと馬車を乗り換えようぜ」
「わ、分かった」

 御者にいるのは二人ね……。馬車を乗り換えて、追っ手に備えているみたい。
 こちらに足音が向かってきて、扉が開き、二人の気配を感じた。

「はー。皇都に住んでる令嬢はこんなに綺麗なんだなぁ」
「おい、どこ見てるんだ。さっさと箱に入れちまおうぜ」
「へーい」

 膝裏に腕を通され、横抱きにして、持ち上げられる。
 頭上からパタリと重い音が聞こえると、一気に真っ暗になった。

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