断罪された公爵令嬢は元婚約者の兄からの溺愛に囚われる
ジャックさまの希望があって小規模となった披露宴を終えた後、小花が咲いたラベンダー色のウェディングドレスのまま、一足先に後宮へと戻ってきた。
披露宴もヴェールが外される事なく、後宮に着いて、ようやっと自室で素顔に戻る。
「ヴィクトリア皇太子妃殿下。初夜の儀に備え、今から湯浴みをいたしましょう」
「……っ! そうね」
侍女によって身に纏っている飾りを外される。せっかく飾り立てて貰ったのに、勿体無いなと思いつつも早く楽な格好をしたいという気持ちも強かった。
花が浮かんだバスタブに浸かると、疲労がお湯に溶けていく。それでも今夜のことを考えると逆上せそうになる。
(ジャックさまと肌をあわせるだなんて、今度こそ心臓が止まってしまうんじゃないかしら)
有能な侍女によって身体を磨かれ、マッサージを施される。気持ちよくウトウトしていると、あっという間に夜となる。
「お帰りなさいませ、ジャックさま」
「ヴィー。ただいま」
ジャックさまが後宮に戻ってくると、ぎゅうっと抱きしめられる。既に着替えられていて、湯浴みをしたのか石鹸の良い香りがする。
「ねえ、もう部屋へ行こう」
「えっ! でも、お食事は……?」
「ヴィーを食べるから問題ない」
「じゃ、ジャックさま!? っひゃあ!?」
ふわっと浮遊感がしたと思ったら、横抱きにされた。ジャックさまの長い足で早歩きすると、お香が焚かれた寝室へと入る。そしてベッドへそっと降ろされると、ジャックさまの整いすぎた顔が近づいて、影が重なる。
啄まれるような口付けが何度も落とされる。その度にわたくしの心臓が高鳴って、ジャックさまのお召し物をぎゅっと握ってしまう。
「ふっ」とジャックさまが吐息を漏らして笑ったかと思えば、どんどんとキスが深くなって脳内が蕩けてゆく。
「ごめん。ずっと我慢してたから、優しくできない」
ジャックさまが懺悔するように紡いだ後は、言葉通り激しいほどの愛に翻弄された。わたくしは幸せに包まれて、一晩中ジャックさまを受け入れた。
***
翌朝、小鳥の囀りで目を覚ます。視線を感じて横を見ると、艶やかな肌をしたジャックさまが肩肘をついてこちらを見つめていた。その視線が暖かくて眩しい。
「ヴィー。おはよう」
「ぁっ、おはようございます」
わたくしから出たのは掠れた声で、それを聞いたジャックさまは、くすくすと笑った。
「これからもヴィーに毎朝、一番におはようと言って欲しいな」
「もちろんですわ」
ジャックさまはわたくしを労わるように瞼にキスを落とす。頬に手が添えられると、自然と擦り寄ってしまう。
「出来るだけこの安全な後宮からでないで。そうじゃないと僕は……」
「ふふっ。ジャックさまの仰せの通りに」
重なる視線、重なる手、重なる唇……。
初めはわたくしがジャックさまを遠くから眺めていただけだったのに、今はジャックさまの瞳に映って愛されている。
これからの幸せな日々に思いを馳せ、わたくしは変わらずジャックさまを見つめ笑みを浮かべた。