処刑直前の姫に転生したみたいですが、料理家だったのでスローライフしながら国民の胃袋を掴んでいこうと思います。

「お食事ありがとうございました。お皿はどこで洗うんですか?」


声をかけてみるがみんな困惑していて答えてくれない。ヒソヒソと耳打ちをし、一定の距離を取って近寄っても来なかった。
見かねたカウルが「こっちだ」と厨房へ案内してくれる。


厨房木の根を細く裂いたような面白いスポンジで洗う。白くてゴボウのささがきみたいだ。洗剤はかわいらしい壺にはいっていて、木のスプーンで掬って使った。
『掛けすぎ注意』と書いてあったが、ティースプーン一杯でも多過ぎたようだ。泡風呂のように、シンクよから溢れるほど、もこもこと泡だってしまった。


泡がもったいなかったのとついでだったので、他の食器や調理器具も洗ってしまうことにする。

さすが城。大人数が暮らしているらしく、大量の皿があった。うつわや平皿すべてを併せると600枚くらいあったんじゃないだろうか。
塗ってくれた薬が水をはじく優れものだったお陰で、傷口も多少ヒリヒリする程度だったため頑張れた。
しかし皿洗いも結構疲れる。腕が重たかった。



「ゆづかは皿洗いが好きなのか?」


厨房からの帰りがけ、わたしは本名を呼ばれたことに目を丸くした。

「いえ、特に好きとか嫌いとはなくて、泡だらけになったからついでに洗っただけだけど。それよりも名前……」

「なんだ。お前はゆづかという名前なんだろう。それともまた俺達を騙しているのか?」

「いえいえいえ! 何も騙してないです! 信じてくれたんだなって驚いただけで」

「まだ信用したわけじゃない。こんな皿洗いくらいで信用を取り戻せると思うなよ」

「も、もちろん」


ギロッと睨まれ、わたしは胸の前で小さなガッツポーズを見せた。
なんでわたしがリアの尻ぬぐいをしているのかわからないが、今はとにかく頑張るしかない。頑張らないと、命は危ういは、気軽に話せる仲間はいないわで、気が狂ってしまう。
今まではSNSがあったからそれでもよかったが、ここにはそういった通信設備はなさそうだし。


「本格的な仕事は明日からだ」

「は、はいっ」


こうしてわたしは、次の日から城の仕事を請け負うことになった。

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