処刑直前の姫に転生したみたいですが、料理家だったのでスローライフしながら国民の胃袋を掴んでいこうと思います。
カウルの体温が手から全身に伝わってきて、ほかほかと暖かい。どっとでた気疲れからか、急速に眠気が襲う。


このベッド最高。

すでに半分意識はなく、むにゃむにゃと喋った。


「あの……さっき、何で来てくれたの? どうしてフェンが居るってわかったの?」

「たまたまだ。夕食の出来事が気になって、ちょっと様子を見に行っただけだ。
あと、なんとなく嫌な予感もしてな」

「……夕食の事が?」

「泣いてないか心配になったんだよ」


閉じていた瞼をあげると、カウルがじっとこちらを見ていた。繋いでいた手を伸ばし、目の下を親指がつっとなぞる。


「泣いた跡があるな」

「ちょっとだけだし。ちょっと悔しかっただけで、そんなには……」


泣いていた事がバレたのが気まずくて口を尖らせると、カウルはふっと笑った。
一瞬、心臓がとくんと跳ねて、わたしは目を逸らした。


「ええと、助けてくれてありがとう……わたしまた死んでしまうのだと思った」

カウルは軽く微笑むと、何かを考えたのか黙った。


「わたし助けてもらってばかりだね。ぜったい恩返しするからね。カウルに迷惑になるようなことしないよ。ちゃんと、ノーティ・ワンを立て直せるように、がんばるから……だから」


うつらうつらしながら話していると、「もう寝ろ」と促された。

「……あとひとつだけ……」

「なんだ?」

「カウルは、どうして“リア”を助けてくれるの?」

カウルにとっても、国を混乱させたリアは憎い筈だ。


「……先代の総長は、俺の恩人だからな」

(……恩人?)


「俺は孤児だ。幼いころ、国境付近に捨てられ死にそうになっていたところを、先代に拾ってもらったんだ。リアはその総長の忘れ形見だ。強くなってリアを守れる男になれよっていうのが先代の口癖だった」

「そっか……」

「だから俺は、なるべく、最後の最後まで見捨てたくはないと思っている。それにーーーー」


カウルがちゃんと話してくれているのに、どうにも低く落ち着いた声が心地よい。
声はわたしの全身を包み、穏やかな気持ちにさせた。
もっと話していたいのに、ずぶずぶと夢の中へと落ちてゆく。


遠くの方で名前を呼ばれた気がした。
久しぶりのまともなベッドと声が気持ちよすぎて、それに返事をすることなく、パチンとスイッチを切ったように意識は途切れた。


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