処刑直前の姫に転生したみたいですが、料理家だったのでスローライフしながら国民の胃袋を掴んでいこうと思います。
「っな……!!」

「はぁぁ?!」


耳の下あたりで散切りになったそれらは、太陽の日を受けて輝いた。数本が、風をうけてキラキラと飛んでゆく。


みんなが目をひんむくなか、わたし一人「ようし!!」と切り取った髪を、左手に掴かみ掲げた。



「よしじゃないっっ!! 何やってるんだ!」

カウルは慌てて剣を消し去ったがもう遅い。
みんなは頭を抱えて叫んだ。

「ぎゃーーーー!! 尊き金の髪がーー!!」

「ゆづかーーっ! なんてことを!」

みんなは発狂していた。
フェンさえも、「お前、何やってんだ……」と呆然としている。


「金の髪は平和の象徴! とても希少で、金で買いたいという者さえいるほどなんだぞ?!」


カウルは、わたしの散切りになった髪をすくって嘆いた。

「えー? べつにまた生えるんだし大袈裟な。その国民である女の子一人も幸せに出来ない金髪なんて、なんの意味もないから」

「……なんだって?」

「フェンごめんなさい! まだ畑仕事残ってるけど、わたし城へ戻って、すぐにやりたいことが出来たから帰るね! この埋め合わせは明日以降必ず。カウル! わたしを今すぐ城へ連れて帰って!」

「なんだってぇ?」

カウルが変な顔になる。


「ほらほら、急いで! みんなごめんね。あ、どなたかポテチ食べおわったら籠の回収お願いします。あとフェンにあげたサンドイッチ、食べなかったら抽選で一名様に差し上げま~す」


わたしは切り取った髪の毛を大事に抱えて、カウルより先にバイクに飛び乗った。

勢いにのまれたカウルは慌ててエンジンをかける。


「フェン、畑は頼んだ。日が暮れる前に撤収してくれ」

「あ、あぁ……?」

フェンの状況が飲み込めない呻きは、自動的に承諾の返事となった。
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