お嬢様は完璧執事と恋したい

 大男は相手が細身の男だと思っただろう。しかし予想と違う方向から聞き覚えのない声に話しかけられたので、すぐにその違和感に気づいたようだ。だが、すでに遅い。

「え……っだぁ!?」

 暗闇から姿を現した朝人の手が大男の胸倉を掴むと、一瞬にして巨体がふわりと浮き上がり、空中で反転する。そしてそのまま、鈍い音と共に冷たい床へ打ち付けられる。

 お手本のような背負い投げだ。相手は油断のせいで受け身さえとれず、さらに自分の体重によるダメージもありすぐには起き上がれない様子だ。

 高身長で男性らしい体躯の朝人だが、普段から特別に鍛えているわけではない。しかしいざというときは、自分より重量のある相手でも投げ飛ばせてしまう。

「な、なんだお前! どこから出て……っうわあっ!?」

 目の前で仲間の大男があっさり投げ飛ばされた様子を見て、細身の男が動揺の声をあげた。しかし朝人はそのわずかな挙動さえ見逃さず、今度はそちらとの距離を一気に詰める。

 今度は投げ技ではない。明らかに先ほどの男性より軟弱そうな相手を投げ飛ばすという選択はせず、足を引っかけてその場に転がし、後ろ手に締め上げるだけで行動を制限する。
< 28 / 61 >

この作品をシェア

pagetop