お嬢様は完璧執事と恋したい

 朝人の説明に、それでこんなに離れた土地まで連れてこられたのかと納得する。それと同時に、この人は本当に有能なのだと感心してしまう。

 本人が言うように朝人は父の生活の世話をする執事であって、仕事を管理する秘書ではない。だが父が漏らす些細な情報から状況を推察し、口外しても問題のない部分を選定して、不安を感じる澪に可能性の一つとして示してくれる。

 もちろん正確なところは彼らをしっかり取り調べるまでわからないはずだが、澪は朝人がいてくれてよかったと心から思う。

 ふ、と安心すると、緊張の糸が切れたせいか急に身体がカタカタと震え出した。

「よしよし、怖かったですね」
「……子ども扱いしないで」

 そんな澪の様子に気付いた朝人が、頭をぽんぽんと撫でてくれる。まるで小さな子ども慰めてあやすような触れ方にムッとすると、それを聞いた朝人が『はい』と短い返事をして頭を撫でる手を引っ込めた。

 子ども扱いしないで、とは言ったが、撫でるのを止めてと言ったわけではないのに。なんて天邪鬼なことを考えていると、朝人が安心したように長い息を吐いた。

「可愛い澪お嬢様……あなたに怪我がなくてよかったです」

 その呟きは、澪が初めて耳にする朝人の本音のように思えた。
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