へっぽこ召喚士は、もふもふ達に好かれやすい 〜失敗したら、冷酷騎士団長様を召喚しちゃいました〜



 唯ならぬ様子に獣舎の魔獣達も、どことなく落ち着きなく喉を鳴らしたり、歩き回ったりしている。せめて檻の中から見えてしまう騎士達の姿を遮断しようと、獣舎の扉を閉めていると、ユネスがこちらに向かって馬を走らせてきた。



「ミアちゃん!」



 普段なら柔和な表情を浮かべる彼が真剣な顔をしていることから、良からぬ事が起きているという事が一目で理解できた。



「何があったんですか?」


「マネクリットの街を魔物が襲ってきているらしく、別部隊から応援を要請されたんだ。これからここを留守にするから、ミアちゃんはくれぐれも魔獣達の事を宜しく頼むね」



 ここに来て初めての出来事に、ミアは今更ながら騎士団に自分が居るということを認識する。

 初めは魔獣達の世話というものに不安しかなかったが、ミアにとっては幸せな時間を過ごせるこの穏やかな仕事場だ錯覚していた。

 目の前にいるユネスの腰には剣が下げられ、今から彼らは民を守る為に己の命を掛けて魔物達と戦うのだ。今こうして会話していても、帰ってくる時には怪我をして、血を流して帰ってくる可能性だってある。

 なぜなら――ここには彼らと契約を交わした魔獣がいない。戦う術は騎士達が体を張って、剣を振るうしかないのだから。



「……っ、気をつけて……!」


「はは。そんな心配しなくても大丈夫だよ」


「ユネス」



 場の空気を少しでも和らげようとするユネスに声が掛かり、声の主へと目を動かせば平然とした様子のリヒトがいた。







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