エレベーターから始まる恋
ビルを出て、少し歩いた先のロータリー前でグンジさんの姿を見つけた。

反射的に電柱に影を潜め、その様子を窺う。
スパイか、探偵か、はたまたストーカーか…いずれにせよ、側から見たら不審者だろう。

彼はスマホを取り出し操作したところで、耳にあてた。
おそらく電話を掛けているのだろう。

耳を傾けてしまうことに罪悪感を覚えながらも、その会話を待った。

「…あぁ、俺。さっきも少し話したけど、仕事大丈夫なのか?車で来てる時だったらそのまま帰り送るから。…あぁ。無理しないで、ミチコちゃん。じゃあ」

…聞かなければよかった。
電柱のそばで呆然と立ち尽くす私を不思議そうにチラ見する人々。

彼は間違いなく、電話の相手を"ミチコちゃん"と呼んだ。
それに、"さっきも話した"って。
彼の身近な人物、彼女を気遣うようなセリフ…間違いない、電話の相手は江藤さんだ。
仕事中は"江藤"と苗字で呼び、勤務時間を過ぎれば"ミチコ"と下の名前で呼んでいるんだ。

…なんだか、最近彼の姿を見かけると、いつも勝手にショックを受けている気がする。

はぁと肩を落とし、近くの入り口から駅構内に入りって帰路に着くのであった。
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