エレベーターから始まる恋
「どうして…」

かき消されるくらいのか細い声。
その人物を目で捉えて離さない。

「坂本、議事録準備な」

「は、はい」

石岡さんのこの声に、ゆっくりと私の方に向けられた視線。
しっかりと交じり合い、その目は時間をかけて大きく見開かれた。

まだ各々雑談が行われている中、その人はゆっくりと私に近づき名刺を差し出す。

「…3階の株式会社COMEで医療機器やシステムの開発に携わっています、郡司です」

ただの議事録係の事務員である私に対して、彼ただ一人だけ名刺を渡した。

驚きのあまり口が半開きになりながらその名刺を受け取る。



株式会社COME
開発部
部長 郡司 恭平


「グンジ…キョウヘイさん」

初めて知ることができた、彼の下の名前。
どうして私に名刺をくれたのかはわからない。
だって、彼は私を知らないはずだから。
エレベーターでたまに乗り合わせるだけの、ただの他会社の人間。

彼の印象に残るような会話もしていないし、そんな容姿も持ち合わせていない。
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