エレベーターから始まる恋

あれから数日。今日は珍しく残業した。
強制されたわけではないが、先日の郡司さんの会社とのミーティングでうちが提供することになった部品の発注が急遽追加になり、急ぎでの業務だったので1時間ほどだけ残った。

「あの、石岡さん。一応必要な手配は済んだのですが…」

「そうか。帰っていいぞ」

「は、はい…」

残っていたのは私と石岡さんだけ。
上司を置いて先に帰っていいのかなと帰り支度が進まないでいると、眉間に皺を寄せながらパソコンと睨めっこしている石岡さんが顔を上げた。

「どうした?やり残したことでもあったか?」

「あ、いえ…何かお手伝いできることありますか?」

普段なら絶対にこんなこと言わない。
鬼から人間になった石岡さんにみんな調子が狂わされている。

「いや、俺もすぐ終わるから。気にしないで帰っていいぞ」

「わかりました…お先失礼します」

誰もいないエレベーターに乗り込む。
やがて3階で停止した。
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