エレベーターから始まる恋

10年以上通い慣れたオフィスビル。
代わり映えのない景色に退屈さを感じながらも、今日もビル内に足を踏み入れた。

入るなり、嫌な光景を目にしてしまう。
二人の男性社員が声を張り会話をしながら大股で歩いており、一方の男性の足が清掃員が使用中のバケツを弾いた。

無惨にひっくり返ったバケツ、広がる薄汚れた水。
その主は気に留めることもなくエレベーターホールに姿を消していく。

どこの社員だ。恥ずかしくないのか。
ぱっと見40代半ばか50代前半のようだった。

このビルには各フロア数社あるからどこの人間なのかはわからない。
うちの社員である可能性も否めないところだ。

朝の出社前の忙しい時間ということもあり、その様子を目にした人物も気まずそうにその横を通り過ぎていく。

はぁと深くため息をつき、近寄ろうとした時だった。
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