エレベーターから始まる恋

「この雑巾使ってもいいですか?」

人混みの中から一人の若い女性がその清掃員の元に駆け寄った。
彼女は躊躇うことなく膝をつき、床に溢れた水を拭き始める。

嫌な顔ひとつせず、笑顔で清掃員と会話しながら作業するその姿がとても美しかったのを覚えている。

あれ以来、その清掃員と親しげにしている場面をよく見かけるようになった。
ビルの清掃員と仲良くするなんて、彼女以外いないのではないだろうか。

不思議な子だ。


やがて、その子とエレベーターで鉢合わせるようになった。

「おはようございます」

清掃員に向けていたキラキラした笑顔で俺に挨拶する。
不覚にも胸が高鳴った。
おそらく、いや、確実に自分より年下で、どちらかというと大人っぽさよりもあどけなさがある彼女に対してこんな感情を抱くなんて不本意だった。

「…おはようございます」

感情は表に出さない。
あくまでも冷静に、ただ同じオフィスビルに勤めるだけの関係性だと自分に言い聞かせる。
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