エレベーターから始まる恋
しばらく立ち話をしているとかなり時間ぎりぎりになってしまった。
いつの間にか人もだいぶ減り、先程の状況と打って変わってガランとしていた。
鈴木さんと別れて走り出す。
ちょうど上りのエレベーターの扉が閉まりかけ、慌てて中に駆け込んだ。

肩を上下させ、膝に両手をつき腰を曲げたまま、ボタン前に佇む人物をゆっくりと見上げる。
その人物を認識した途端、私の心臓は分かりやすく飛び跳ねた。

「おはよう…ございます」

「…おはようございます」

チラッと一瞥し、またすぐ視線を前に戻してしまった。
私も姿勢を正し、同じように前に向き直る。

少し斜め後ろに立つ私は、この人の姿をじっと見つめた。

私の会社でのもう一つの癒し…いや、会社に来る目的である人物。
私が密かに思いを寄せている人。

ワックスで綺麗に整えられた黒髪。
前髪を上げておりしっかりと見える眉はキリッと上がっていて、目は切れ長。
骨張った男らしい顔つきに、肩幅と厚みのある身体。
180センチ近くはあるだろうその長身が、ストライプの入ったダークグレーのスーツをより上品に際立たせている。
年齢はおそらく私より上で、30代半ばといったあたりか。
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