貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
「母の趣味だ……」
「お母様の? 素敵です!」

うちの場合は、庭と言ってもあるのは野菜が大半だ。こんな可愛らしい庭に憧れても現実には植えるのはチューリップ程度だった。

「そうか。母が喜ぶだろう」
「私も、お話し合いそうです」

石畳みを歩きながら主任にそう言うと、主任は私を見て薄く唇を開く。

「そうじゃなくても合うはずだ」

私にはそう聞こえた。どういう意味だろう? 植物好きとかかな? そんなことを思いながら主任のあとに続き、家の前までやってきた。

建物も、うちとは違う洋風の大きなおうち。白い壁が眩しいくらいだ。そして主任は目の前のウッディな玄関を開けて中に入った。

「お邪魔……します」

誰もいないけどそう言うと、奥から年配の女性が顔を出し、パタパタと音を立てながらこちらにやって来た。

「こ、こんにちは」

お母様だろうかと身を固くしてそう言うと、そのふくよかで優しそうな女性は笑顔を見せた。

「おかえりなさいませ、坊っちゃん」

それに私が「坊っちゃん⁈」と声を上げてしまい、主任に睨まれた。

「あらあら」

そう言うと目の前の女性は楽しそうに笑いながらスリッパを差し出している。

「さ、お嬢様も。お上がりくださいな」
「ふぁっ、ふぁいっ!」

また得意の噛みまくった返事をすると、隣から溜め息が聞こえてきた。

すみません。まったく賢そうじゃなくて……

心の中で謝りながら私はスリッパに履き替えた。
< 140 / 241 >

この作品をシェア

pagetop