貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
朝。どこからともなく鶏が叫ぶ声が聞こえる。そんな田舎に私の家はある。周りは山だらけで、「見える範囲の山は全部うちのものだ!」なんてお父さんは言うけど全く嬉しくない。山はただの山でしかないのだから。

目を覚ますと、私は天井からぶら下がる蛍光灯の常夜灯を消し起き上がる。
今日からは、憧れ続けた都会の生活が待っていると思うとワクワクしてしまう。と言っても……ここも同じ都内のはずなのに。

『就職するまでは都会には出さない』と言う、私だけに対するお父さんの方針で、私はこの山の中にあるポツンと一軒家的な木造平屋建の家で暮らしていた。土地が安いからか庭は無駄に広く、家もそれなりには広かったが、とにかく古い。それでも長年住んでいた家なのだから、愛着はあるのだけど。

「おはよ~。与織姉、起きるの早くない?」

いっくんが布団の中からモゾモゾ動きながらそう言う。

「おはよ。最後の荷物用意しとかないと、いっちゃん来ちゃうでしょ?」
「兄ちゃん何時に来るの?」
「お昼前だって。こっちでご飯食べてから出発しようって」
「兄さんとご飯食べるのも久しぶりだ」

反対側から声がして振り返ると、りっちゃんが枕元に置いた眼鏡を探りながらこっちを見ていた。

「だね」

私は笑って短くそう返事をする。

『いっちゃん』とは、私達の一番上の兄、一矢(いちや)のことだ。
そして、私達にはあと2人兄がいる。私は6人兄弟の紅一点なのだ。
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