貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
新居に持って行く荷物はそう多くない。家具はもちろん、家電も全部揃っていて、本当に自分の物だけ荷造りすればいいだけだった。それに、その気になればいつでも取りに来られるから、これからの季節に必要な服だけでいい。
まぁ新居からここまで、電車で2時間程かかるし、結局誰かに車を出してもらわないと取りに来られないんだけど。

「あ、兄ちゃん来たみたい」

荷物の箱を運んでいたいっくんがそう声を上げる。外に面している廊下からは、舗装もされてない砂利道を上がってくる白い車が見えた。

「て言うか、兄さんまた車変えた?」

りっちゃんは箱を両手で持ったまま呆れたように言っている。
確かに、私と7つ歳の離れたいっちゃんは、仕事も忙しいらしく滅多に家には帰ってこないが、帰るたびに車が違う気がする。今度のは6人乗れそうなSUV車だ。そしてその車が庭先に停まると、そこからいっちゃんは颯爽と降りてきた。

これを一度大学の前でやられて黄色い悲鳴が上がったんだよなぁ……と私はその時のことを思い出す。

たまたまこっちに帰る用事があったから『家まで一緒に帰ろう』と大学の前で待ち合わせしたのだが、女子大の前に現れたいっちゃんに、周りが騒然としたのだった。それからは、大学近隣で待ち合わせはしないことにした。

にしても何で私だけ、両親の平凡パーツを集めた顔してるのか。

弟達とはタイプの違う、精悍な顔つきのイケメンな兄を見ながら私は溜息をついた。
< 4 / 241 >

この作品をシェア

pagetop