室長はなにをする人ぞ
五嶋さんは立ち上がると奥の書架に向かい、一冊の古びた色見本帳を手に戻ってきた。

「こういう見本帳も再版されないから、大事な資料なんだ。廃番になっている色も多くてね」

貴重な文献を開く心持ちで、わたしは五嶋さんの手元を見つめる。
それにしても、いちいち知らないことだらけだ。

「ちなみに現行の日塗工番号は1995年のT版から4桁に改変されている。数字が5桁の時点で、だいたいの年代の察しがつく。
と、この色か」

彼とR59-139の色サンプルを注視する。

「いわゆる赤…ですね」
思ったことをそのまま言ってみる。
人が赤と聞いてイメージする赤そのままだ。しいていえばわずかに朱色っぽい。そんな色だった。

「一般的に、赤は住宅の外装にはあまり使われない。やはり目立つし個性が強い色だ。だから面積の少ない窓枠に指定したんだろう」

「それでもこの色を使いたかった、ということですよね。奥様の色だから」
はてさて、この色がどうして一人の女性を意味することになるんだろう。
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