室長はなにをする人ぞ
「当の本人も赤い色に心当たりがない」
確認するように、五嶋さんが口にする。

「赤…うーん、奥様の誕生石がルビーとか。あ、朱夏(しゅか)っていう季語があるから、夏生まれだとか」
推理というより、これじゃただの連想だ。

「いい線をついてる」
皮肉で言っているわけではなさそうだ。

「すみません、ただの思いつきで」

「いや、すぐにそこまで結びつけられる発想力はたいしたものだよ。口にすることで思考が整理されることもあるから、遠慮なく話してほしい」

褒めてもらえたのは嬉しいけど、正直手詰まりだった。
そして、五嶋さんには他にも依頼されている案件がある。先の見えない問題にかかりきりになってもいられない。

「まずは目星がついている案件、それと期限が決まっている仕事から片付けないとな」
五嶋さんが息をつきながら言った。

たしかにできることから処理していかないと、仕事は溜まっていくばかりだ。

ひとまず日塗工の色見本帳と泉邸の図面を、かたわらのキャビネットの上に置いた。
未処理の案件は、常に意識できるよう見える場所に置くのが、五嶋さん流だ。
< 37 / 54 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop