全てを失っても幸せと思える、そんな恋をした。 ~全部をかえた絶世の妻は、侯爵から甘やかされる~

新しい当主は、彼女を愛してやまない彼

 デルフィーは、王都にいるケビン・ヘイワードの訃報を聞き、真っ先に、アベリアが夫を殺めたと考えていた。
 彼女の部屋にあった、違和感を覚える赤い花の球根。
 彼女がそれを使ったのかと、脳裏をよぎった。
 もし、そうさせたのなら自分のせいだと、彼は己を責めていた。
 とにかく彼女へ謝りたかった。
 普段は乗りなれない馬を、長い距離1人で駆ってでも、大急ぎで王都へ向かった。
 向かう途中も、涙は途切れる事はなかった。
                                    
「アベリア様、はぁっ、アベリア様、アベリア様……」
 ヘイワード侯爵邸へ息を切らせながら入っていったデルフィー。
 彼は、従者の招きも案内も受けずに、愛しい人の名前を何度も声に出しながら、この邸の侯爵夫人の部屋へ、脇目も触れずに駆けて行った。
 領地で仕えているデルフィーだけど、この邸の造りはよく知っていた。
 長い間ここを訪れていなくても、それは、変わっていなかった。
                                    
 ノックをしながら声をかける。
 ゴンッゴンッ――
「アベリア様、扉を開けますよ」
 返事を聞かずに扉を開くのは、女性に対して失礼だと思いながらも、一刻も待てなかったデルフィー。
 彼は、中から返答の無い部屋の扉を開ける。
                                                                
 開けると同時に、昨日経験したばかりの2回目の衝撃を受けた。
 ガランと何もない部屋。領地の侯爵夫人の部屋と、同じ景色が飛び込んで来た。
 既に人の気配はなかった。
 ただ、一つ違ったことは、急いで出て行ったアベリアは、寝具をそのままにしていた。
 デルフィーは急いで寝台へ近寄り温かさを確認する。
 けれど、少しも温もりは残っていなかった。
 それでも、その寝具にはアベリアの香りが残っていた。
 床に膝を付け、その寝具に突っ伏していたデルフィーは、微かに残るアベリアを感じていた。
                                               
 そんなデルフィーの背後から人の気配が近づいて来る。
 僅かな期待を込めて立ち上がって振り向いたけれど、やはりアベリアではなかった。
                                                                                                   
「デルフィー様、こちらで何をされているんですか? 混乱されているのは分かりますが、ご当主の部屋はそちらではありませんよ」
 もちろん、そんなことは分かっているデルフィー。
「アベリア様はどこにいる?」
「あー、アベリア様でしたら今朝からお姿を拝見しておりません。部屋のお荷物も無いので、もうお戻りにならないかもしれません。昨日は、体調が悪くて臥せっていたのですが、何も言われずにいなくなりました」
「っ、どうして、引き留めていなかった」
「そんなことをおっしゃられても、私共が気づいた時には、おりませんでしたから。それより、当主の葬儀が終わりましたら、デルフィー様へ侯爵位が継承されますから、全ての書類に目を通して署名をお願いします」
                                    
                                   
 アベリアが戻ると同時にケビンは亡くなり、アベリアは逃げるように立ち去っていた。
 アベリアが知らなかっただけで、今、侯爵夫人の部屋で項垂れているデルフィーが、ヘイワード侯爵位の継承権が一番近い存在だった。                        
                              
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